荒地、ガチ?
乾いた風が頬をなでていく。
目の前には、どこまでも続く灰色の荒地。
草もなく、木もなく、ただ遠くの岩山が霞んで見えるだけ。
陽真はゆっくりと息を吐いた。
それは安堵とも、諦めともつかない、微妙な吐息だった。
「……誰もいねぇな」
誰の目も、誰の声も、誰の気配もない。
それが、陽真にはなによりの“ご褒美”だった。
「ふー……よかった。これなら……誰にも迷惑かけねぇで済む」
小さく呟き、リュック――いや、《無限バックパック》を下ろす。
口に出さないと落ち着かない癖が出る。
「さて……何が入ってんだ?」
バックパックを開くと、整然と収納されたアイテムが並んでいた。
どれも現代のキャンプ用品そっくりだが、タグにはどれも《魔道具化:未確認》の文字。
折りたたみテント(自動展開式)
焚き火台
クッカーセット一式(鍋、フライパン、メスティン)
ランタン(燃料不要)
コット(簡易ベッド)
水フィルター&タンク
調味料入り小瓶、乾燥食料3日分
数種類の野菜の種と……なぜか、タバコの種
「……マジで、俺の趣味まんまだな」
そして、手に取るのは例の農具セット。
クワ、鎌、鋤、ジョウロ、鎚――どれも一見、ただの古道具だ。
「チート農具、だったか……ほんとに、使えるのかよ……」
陽真は空を見上げた。雲一つない青空が、まぶしくも冷たい。
「……とりあえず、土地を見てみるか」
手のひらを地面に当てる。
使い方などわからないが、自然と意識が地中へと沈み込んでいく。
《スキル:大地との共鳴【テラリンク】発動》
音もなく、大地の“声”が流れ込んできた。
――この土地、痩せている。
――水脈、浅くない。
――風、強く、作物には不向き。
――毒素、微量に混入。
――この地は「農地」に不適。
陽真の眉がピクリと動いた。
「……は?」
数秒の沈黙。
「チートもらっといて……いきなり“詰み”とかある?」
乾いた笑いが喉から漏れる。
狐――コノハは、足元で尻尾を揺らしていたが、まだ何も語らない。
陽真はうずくまり、頭を抱えた。
「……やっぱ俺、詰んでんじゃねぇか」
それでも、誰にも見られていない。
笑われることも、叱られることもない。
「でも、ま、ひとまず……やってみるしかねぇか」
土を見つめる目が、ほんの少しだけ、現実を受け入れ始めていた。