チートは料理でも
「ほら、畑でとれたジャガイモとトマト、それと……昨日の残りの猪肉」
「おお、いいじゃねえか!」とショーン。
「バターとかある?」
「ノールが何か混ぜてた瓶ならあったぞ」
「それでいいや」
陽真は鍋をクッカーにセットし、魔力を流す。
ふわり――と焚き火の炎が優しく反応した。
「……適当でいいからな。ほんとに」
芋を潰し、肉を炒め、トマトをざっくり入れる。
塩ひとつまみ。
バターを落とし、気まぐれでハーブをひと振り。
ジュワァァ……と音を立て、芳ばしい香りがあたりに広がる。
ショーンの鼻がピクリと動く。
「……おいおい、何だこの香り」
ノールもくんくんと鼻を近づけ、うっとりした顔。
「うそ……これ、本当に適当に作ってます?」
「……作ってる本人が一番びっくりしてる」
皿に盛って、焚き火の横に置く。
“ほくほくポテトと猪の香草バター炒め”。
「まあ、味見してみろよ」
ショーンがスプーンを突っ込み、一口
「……っ!!!」
目を見開き、固まった。
ノールも一口。
「……あぁ……幸せ……」
二人同時にとろけるように崩れ落ちた。
「え、そんなに?」
陽真は訝しげに首を傾げた。
その瞬間、二人の身体が淡く光を放つ。
「……ん? おい、何だこれ、体が軽い!」
「わっ、酔いがスッと抜けて……逆に飲みたくなる!」
【バフ発動:リラックス+気力上昇+酩酊耐性アップ】
「……はあぁ、やっちゃったか」
陽真がぼそっと呟く。
“グルメ錬成”スキルのせいで、どう頑張っても“バフ付き料理”になるのだ。
それも、飲み助仕様の最高級バフ。
「陽真! お前これ、定期的に作れ!」
「いやだ。俺は飲むだけだ」
「頼む! これがあれば、飲んでも翌朝シャッキリ目覚める!」
「……それは確かに魅力的だけど」
ノールが手を合わせて微笑む。
「陽真さん、あなたの料理、魔法です。私、あなたの弟子になります!」
「やめろ、そういう面倒なこと言うな!」
三人は笑いながら焚き火を囲む。
ポテトの香り、酒の甘い香り、夜風。
陽真はキセルをくゆらせながら、のんびり呟いた。
「……俺、ほんと働きたくないのにな」
「欲望には勝てないんですよ。」
ノールがにっこり笑う。
「……うるさい」
焚き火の火がパチパチと弾ける。
そして夜は、香ばしい匂いと笑い声に包まれて、更けていった。
なんとなく、明日もまた、こんな日が続けばいいな。
とか、考えたりしてな。
異世界来て、余裕持ってちょっとは変わってきたかな?