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こんこん、こんこん、忘れてない?
その日の夕方。
ノールはぶどうの房を丁寧にチェックし、フラスコにぶどうジュースを注ぐ。
「発酵開始。あとは魔力を少し加えれば、完璧なワインになります」
「……後は飲むだけだ」
「はい、陽真さんは口を開けて待つだけでいいんです」
「……うむ」
ショーンは隣で麦と芋の苗を眺めながら、嬉々として叫ぶ。
「この土地ならビールも焼酎もすぐに作れるぞ! 未来の酒宴が楽しみだな!」
「俺は未来の酒宴だけ楽しめればいい……それだけでいい」
ノールは笑顔で作業を進める。
フラスコの中でぶどうジュースが気泡を立て、やがてほのかな香りを漂わせ始めた。
俺は焚き火の前で、煙草をくゆらせながら思った。
――働かずに、飲むだけ。最高じゃないか。
だが心のどこかで、少しワクワクしている自分もいた。
怠け者のスローライフに、少しだけ賑やかさが加わった気がする。
ん?なにか重要なものが抜けてるような。
まぁスローライフだ、気にする事ないかな。