1人で生きていきたい。
暗闇の中、陽真は細い光に包まれていた。
耳をつんざく雷鳴が、全身を震わせる。
「……はぁ……なんで俺がこんな目に……」
小さな声で呟く。
現実からの逃避――そんな気持ちで異世界に飛び込んだ自分を、少しも肯定できなかった。
そのとき、声が響いた。
「相澤陽真よ。お前に力を授けよう」
そこに立つのは、秩序と安寧の神、コノハ。
狐の姿を借りているが、その瞳は温かく、そしてどこか寂しげだった。
「お前が一人でも生きていけるように……。その願いは、決して間違ってはいない」
静かに、神は手を差し伸べた。
その掌から浮かび上がるのは、何の変哲もない農具のセット。
「《神農の農具》だ」
見た目は普通のクワや鎌、鋤、ジョウロに過ぎない。
しかし、神の声は告げる。
道具効果
クワ土壌を最高ランクに変え、岩盤や毒地も一振りでふかふかにする。
ジョウロ魔力で植物に成長促進・病気耐性・味覚向上を与え、水なしでも使える。
鎌雑草や敵の魔法も刈り取れる。反射効果付き。
鋤土中の鉱石や魔鉱石、魔法陣も掘り出すことができる。
鎚建築・加工・鍛冶対応。簡単にログハウスが建つ。
「さらに……」
神は小さな箱を取り出し、それを陽真の所持していたキャンプ用品に触れさせた。
「《キャンプギア進化スキル:キャンプ∞改造》」
テントは自動設営し、防音・防虫・防魔の結界を展開する。
焚き火台は魔法属性を込められ、治癒の火や冷蔵庫モードにも変化可能。
クッカーは異世界の料理スキルを無視し、バフ付き料理を作り出す。
ランタンは癒しの効果を範囲内に放ち、敵には幻惑を与える。
コットは睡眠回復効果を10倍にし、状態異常も解除する。
神の声はさらに続く。
「お前は《大地との共鳴:テラリンク》も得た。土地の声を聞き、自然と共に歩め。
そして《グルメ錬成》、食は魔法だ。食べる者を癒し、強くする術を身に着けよ」
最後に、陽真の背中に温かい感触があった。
「無限バックパックもやる。これでどこへでも行ける。お前が孤独でも、困らぬように」
光が溶けて消え、陽真の手には確かな道具が握られていた。
「……俺、一人でも生きていけるんだな……」
震える声で、初めて自分を少し肯定した。