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俺も欲しかったけどさ
俺はとりあえず籠を覗き込む。確かに新鮮そうな果物だ。
この世界に来てから、俺の食生活は基本「畑で採れた芋・麦・野菜」と、たまに獲れる肉。
甘いものなんてほとんど口にしてなかったから、正直ちょっとそそられる。
「で? これを俺にどうしろと?」
「育ててほしい!」
「……やっぱりか」
来たな。
「俺がここで果物を食べて、うまいうまいで終わりじゃダメなのか?」
「もったいないだろ! こんな広大な土地で! 摩訶不思議な力の持ち主がいて! 果物を植えずにどうするんだ!」
「いや、別にどうもしなくていいだろ」
「よくない! ぶどうを育てればワイン! 桃は蒸留してフルーツブランデー! りんごからはシードルだ! 未来の酒宴が待ってるんだぞ!」
「酒かよ……」
そうだよな、と思った。
タバコを吸ったあの日から、なんとなく薄々勘づいてた。
こいつの本当の目的は“売買”じゃなくて、“嗜好ライフを広げること”なんだと。
だってそうだろ?金儲けなら、もっと粘るはずだ。
あんな簡単に、引き下がるわけがない。