煙草のケムリ、魅力の落ち着き
「――へえ、こんなところに農園なんてあったのか」
その男は、まるで旅の一幕のように、ふらりと現れた。
背にはずっしりと大荷物。皮のジャケットに風をはらませ、片方の目だけを見せるような髪型で、いかにも“旅人”といった風貌だ。だがその目は鋭い。俺の畑を一目見るなり、にやりと笑った。
「質がいいな。土も、作物も」
「……見ればわかるのか」
「一応これでも、目利きには自信があるんだよ。名はショーン、流れの商人さ」
名前、聞いてねえのに勝手に名乗られた。
とはいえ、その視線は真剣だった。土を一瞥しただけで、俺が《神農のクワ》で整えたフカフカの地質を見抜いたらしい。うーん、ちょっと警戒すべきか?
と、彼の視線がふと逸れる。
「……キセルか? それ、今吸ってたやつか?」
「ああ。まあ、ちょっとだけな」
「一口、もらえないか?」
おいおい、いきなりかよ。
でもその顔には、どこか真剣な“嗜好品マニア”の色があった。俺も吸いたいとき吸えないと辛い性格だし、これはまあ……通じるものがある。
「どうぞ」
差し出したキセルを、ショーンは丁寧に受け取り、焚き火の火で軽く炙って一吸い。
――その瞬間。
「……っ、これは……!」
ショーンの目が見開かれる。鼻からゆっくり煙を抜きながら、まるで美酒を味わうかのように一言。
「……極上だ。香りも、余韻も、何よりこの……ふわっと身体が軽くなる感じ。これ……何だ?」
あー……やっぱ、バレたか。
グルメ錬成の効果が付いてるから、多分、“リラックス”と“精神安定”のバフが……
まさか、タバコにまで魔法効果が付くとは……
ショーンは感心というより、感動していた。腰の袋をごそごそと探りながら、言葉を続ける。
「これ、商品化できる。いや、間違いなくできる。むしろ“いま俺が買い取るべき案件”だ。どうだ、売ってくれないか? いや、いっそこの農園のタバコ、定期的に取引しないか?」
「……は?」
いきなりビジネス交渉が始まった。
こっちはただ、一服してただけなんだけど……?