やっぱくるよね。来訪者
荒れ果てていたこの場所も、少しずつ形になってきた。
雑草だらけだった土地は、今やふかふかの黒土。畑には規則正しく並んだ作物たち。トマト、ナス、じゃがいも、ハーブ数種、謎の光るダイコン(←これだけ異世界産)まで元気に育っている。
「……よし、今日もいい出来だ」
俺は一人、小さくうなずいてキセルに火をつけた。
朝の空気の中でくゆる煙は、どこか特別に感じる。心を落ち着かせ、静かに“ひとりでいること”を肯定してくれる時間。
木の苗も順調だ。あれが育てば、ログハウスの一つでも建てられる。もちろん建築は《神農の農具》の「鎚」さんにおまかせだ。
……などと、まったり一服していたそのとき――
視界の端に、動く影。
あれは……?
「……人?」
丘の向こうから、一人の旅人が歩いてきた。
背には、自分の身長ほどある巨大なバックパック。キャンプ用品を詰め込んでいるのか、鈍く金属が軋む音まで聞こえてくる。服はボロボロだけど、目は真っ直ぐ、こっちを見ていた。
こんな場所に、人が来るなんて。
思わずキセルを口から離し、ぼんやりと立ち上がった。
目の前に、久しぶりの“会話”の予感が迫っていた。
「やあ……畑、すごいな」
らいほ
その人は、少し息を切らしながら笑った。
近づくと、意外と若い。俺と同じくらいか、もしかしたら年下かもしれない。だけど、背中に負ったものの重さが、歳月以上の何かを感じさせた。
「……ああ。まあ、ちょっと、色々あって」
声がうまく出なかった。
口の中の煙が、いつもより少しだけ甘く感じた。
「水、飲む?」
俺は言った。
キャンプギアから取り出したマグカップに、清水を注ぎながら。
――ひとりじゃない空気。
それは、思ってたより、悪くなかった。