キッセルキッセル
――タバコの葉は、よく乾いていた。
黄金色に変わったその葉を見て、思わず「よしっ」とガッツポーズを決めた。
だけど。
「……紙がねえ。」
なんでだ。異世界転生してからというもの、畑は順調、野菜はモリモリ、キャンプギアもなぜか進化していく。おかげで食って寝て起きて、サバイバル生活は困ることなく続いてる。
だが、タバコの紙だけは、ない。
「紙くらい、バックパックに入れておけよ……俺……!」
無限バックパックを開いて、あれこれ漁るけど、やっぱり無いものはない。ランタンは三つもあるくせに、紙はゼロ。
あああ、吸いたい。せっかく乾かしたのに。
――じゃあ、どうするか。
「……作るか。キセル。」
俺はそっと、腰に掛けた鋤を手に取った。
こいつは《神農の農具》のひとつで、ただの鋤じゃない。土を耕すだけじゃなく、鉱石や魔鉱石を“掘り出す”チート神器だ。
まあ、今回は金や魔石はいらない。欲しいのは、吸えるパイプ。
森の奥に生えていた硬めの木の枝を一本選んで、《鋤》で地面ごと掘り返す。すると根まで丸ごとスポンと抜けた。
「この木、芯が詰まってていい感じ……だな。」
木の枝をナイフで細く削り、先端に穴を開け、金属片(さっき鋤で引き出した)を小さなボウル状に加工。
パイプの先にカチっとはめると、見た目だけは立派なキセルになった。
「うん、悪くない……」
タバコの葉は刻んでおいた。
試しに、タバコ葉をほんのひとつまみ包んで、キセルの先に詰めてみる。
そして、焚き火台にそっと火をつけ、ふう、と一息。
――ふわり、と、煙が口の中に広がった。
どこか懐かしい香り。少し土の匂いが混じってるけど、それも悪くない。
静かな森の中で、ひとり、俺はゆっくりと煙をくゆらせる。
「……あー……落ち着く。」
火の暖かさと、煙の香り。それだけで、どこか“こっちの世界”でもやっていけるような気がした。
畑仕事もいいけど、こういう時間があるから、生きていける。
――次は、ハーブ入りで吸ってみようかな。
俺はちょっとだけ笑って、もう一度、キセルに火をつけた。