生きてる実感素晴らしい時間
朝の冷たい風が、畑の土と草の匂いを運んでくる。
陽真は背中を少し丸めながら、収穫した野菜を丁寧にバックパックへ詰めていた。
「……にんじん、じゃがいも、タマネギっぽいやつ……あとこの謎のハーブ……」
指先に残る土の感触が、じんわりと心地よい。
畑の片隅にはタバコの葉も干されている。
乾燥には少し時間がかかりそうだが、それもまた楽しみだった。
陽真は一息つくと、焚き火台をセットする。
《キャンプギア進化スキル:キャンプ∞改造 発動》
焚き火台は自動で風向きを読み、炎の安定感が増す。
いつのまにか、“癒しの魔力”がふんわり周囲に漂いはじめていた。
「……スープ作るか」
魔法クッカーセットを取り出す。
鍋をセットし、水を注ぐと――
水は一瞬で湧き始め、底に魔力の紋様が浮かび上がった。
「チートすぎるだろ、これ……」
じゃがいも、人参、謎ハーブ、タマネギ(に似たもの)をカットし、鍋に投入。
出汁代わりに魔獣の骨を小さく砕いて放り込むと、ほのかに甘い香りが立ち昇る。
「……ヤバい、めっちゃうまそう」
蓋をして少しのあいだ待つ。
焚き火の炎と、朝の空気と、魔力の香り――
どれもが静かに胃袋を刺激してくる。
そして数分後――
パカッ。
蓋を開けると、
黄金色のスープが湯気を立てていた。
一口すくって、口へ。
「…………っ」
舌に広がる旨味。
優しい甘みと、骨の出汁の深み。
ハーブの清涼感が、まるで背筋を撫でるように体を巡っていく。
「……うわ……これ……」
そのまま、コットにへたり込みながら、何度もスプーンを口に運ぶ。
「めっちゃ、あったか……」
心が、ほぐれていくのが分かる。
昨日までの不安、緊張、逃げ出したい気持ち――
そのすべてが、スープの湯気に溶けていくような気がした。
「……俺の人生、今のがいちばんマシかもしれんな……」
小さな声で、そう呟いた。
その言葉に、隣で丸くなっていたコノハがぴくりと耳を動かし、
ゆっくりと近づいてきた。
「 がんばった 」
短い言葉。
でも、それは陽真にとって、
どんな料理よりも――温かかった。