あぁ神様ありがとう
朝。
まだ薄明るい空。地平線には、かすかに朝日が差しはじめていた。
テントの中、陽真は目を開けた。
「……ん、あれ……?」
起きたのに、腹が痛くない。
昨日食べた魔獣の肉――問題なかったらしい。
「……生きてる。俺、生きてる……セーフか」
それだけでちょっと笑えてくる。
寝起きの重い身体を引きずるように、テントを出た瞬間――
「……っ、え」
畑が――変わっていた。
濃い緑に茂った葉、太く実った茎。
タバコの葉は広がり、人参は地面から頭をのぞかせ、
じゃがいもの葉はすっかり枯れて、掘り頃を教えていた。
昨日まで、ただの芽だった。
それが今――もう、“実って”いた。
「……マジかよ」
思わずしゃがみこむ。
恐る恐る手を伸ばし、人参を引き抜く。
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小気味よい感触。
引き抜いたそれは、文句なしに立派な――人参だった。
「……ホントに、できてる……俺が植えたやつが……」
まるで魔法みたいだった。
いや、実際、魔法のようなチート能力があった。
でも――それでも。
「これ、俺の手で……育てたんだな……」
声が震えた。
昨日まで、自分は何もなかった。
社会からも、人からも、未来からも、逃げ続けてきた。
でも今――目の前にある。
命の形をした、自分の“結果”。
「……ありがとう、神様」
気づけば、隣にちょこんと座るコノハを見ていた。
狐は何も言わず、ただ尻尾をふわりと揺らしている。
「……お前のおかげだ」
コノハは一瞬、こちらを見て――
「 うれしい 」
また、心に言葉が届いた。
その一言が、妙に沁みた。
陽真はゆっくりと立ち上がると、
クワを手に、次はじゃがいもを掘り始めた。
朝の光が畑を照らし、
あの荒れ地だった土地が、今、確かに“生きて”いた。