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時の狭間での約束

作者: 霧咲ヨル

第一章 消えた声

数年前、わたしには大切な友人がいた。


彼と過ごした時間は、まるで星空の下での約束のようだった。


青い空と星々の輝きに包まれ、彼の笑い声が響き渡っていた。


「将来は一緒に成功しよう」と、夢を語り合ったあの日を今でも鮮明に思い出す。


その日々は突然終わりを告げた。


友人は自らの命を絶ち、わたしは彼の死という現実に打ちひしがれた。


彼が笑っていたあの瞬間に戻りたかった。


彼を救うために何ができたのか、悔やむ気持ちが胸を締めつけた。


そして数年後のある晩夢の中で信じられない体験をした。


わたしは彼の死の五日前にタイムリープしていた。


驚きと混乱の中彼のいる場所へ向かうと、彼はいつものように笑顔で迎えてくれた。


「久しぶりだね!」と彼が言った。


その言葉が耳に響く。


わたしは彼の温もりを感じながら、再び一緒に未来を語れるのだという期待に胸が高鳴った。


「一緒に未来を語ろう」とわたしは彼に言った。


彼は微笑み、しっかりと手を握ってくれた。


しかし夢から覚めるたびに、彼の笑顔は消えてしまう。


現実の厳しさが心に刺さる。



第二章 遺書の影

何度もタイムリープを繰り返すうちに、失敗が増えていった。


彼を救うことができない自分に、苛立ちと不安が募る。


彼の死を防ぐために動いているはずなのに、何も変わらない現実が恐ろしかった。


そんなある日、友人の遺書を見つけた。


手紙は薄暗い部屋の隅に置かれていた。


手を伸ばして開くと、彼の字がそこにあった。



『生きることは時に辛い。しかし、死はもっと恐ろしい選択だ。喜んで死を選ぶことができるなら、それは生きているよりも幸せかもしれない。私の命は、私のもの。誰もその価値を決めることはできない。それを理解してくれるのは、果たして誰だろうか?』



その言葉がわたしの心に響いた。


彼の心の奥底にどれほどの苦しみがあったのか。


理解しきれない思いに胸が締めつけられる。



『他人の生き方を押し付けられるのは、どうしても耐えられなかった。誰もが他人のことを理解できるわけではない。死は生の一部であり、私が私自身を理解することは他人にはできない。それでも、君は私を理解しようと思うのか?私を救おうと思うのか?それは果たして、誰のためになるのか?』



手紙を読み進めるほどに、彼がどれほどの孤独を抱えていたのかがわかる。


彼の中にはわたしには理解できない世界が広がっていた。


わたしは彼との約束を思い出した。


「どんな時でも、お互いを支え合おう」と。


あの約束が、今はただの言葉のように響く。


彼を救うためにわたしはどれほどの努力をしているのか。


彼の言葉が心の中で響く。


「君は私を理解しようと思うか?救おうと思うか?」


わたしはただ動き続けることしかできないのだ。



第三章 夢の中の選択

何度目かのタイムリープの夜、再び彼を救うための選択を迫られた。


今までの失敗が頭をよぎり、心が重たくなる。


いつもなら「救うために動く」と思えるはずだったが、選択肢の前で立ち尽くしてしまう。


彼の声が再び耳に響く。


「君の選択は、誰のためになるのか?」


その問いが、わたしの心を揺さぶる。


過去の選択肢が目の前に並び、わたしはその中から選ぶことができなかった。


「本当に、彼を救うことができるのか」と自問自答する。


選択肢の中には彼を救うための手段だけでなく、自分自身を守るための道もあった。


わたしは心の奥で「選択することで、彼の思いを受け入れることができるのか」と考えた。


その瞬間、冷静さを取り戻した。


「わたしは生き続けることを選ぶ」と思った。


彼の想いを受け止め、自分の生を選ぶことこそが彼への約束ではないのか。


夢の中で彼は微笑み、「それが君の選択だね」と言った。


まるで彼が見守っているかのようだった。


目を覚ますと、わたしは現実に戻っていた。


しかし、心の中には彼の存在がしっかりと根付いていた。


これまでの苦悩や葛藤は彼と過ごした日々の思い出に変わり、少しずつ癒されていくのを感じた。


元カノとの再会も、そんな中で起きた。


彼女はわたしを見つけると、少し驚いたような表情を浮かべた。


「久しぶりね」と声をかけてきた。


「久しぶりだね。元気にしてた?」と返すと彼女は少し沈黙したあと、


「あなたが大変だったこと、聞いてたよ」と言った。


その言葉に何かがこみ上げる。


過去のことを語るのは難しいが、彼女の存在が心の支えになることもあった。


「彼を救えなかった自分をずっと責めてた」と言った時、彼女は静かに頷いた。


「それでも、あなたは生きている。彼のためにも、自分のためにも。」


その瞬間、彼女の言葉が心に響いた。


約束を果たすためには、まず自分が生きることが大切なのだ。



第四章 選択の意味

何度も繰り返してきた選択がようやく意味を持ち始めた。


わたしは彼との思い出を胸に、今を大切に生きることを選んだ。


友人の死は決して無駄にはならない。


彼の教えはわたしの中で生き続けているのだ。


その後、タイムリープの力は失われたが過去を変えることはできなくとも、未来を選ぶことはできる。


わたしは今を大切にし、彼の想いを生かすために生きていこうと決意した。


最後の選択が意味するものは、未来への希望であり、約束を果たすことだった。


彼の言葉が心の中で優しくささやく。


「君は私を理解しようと思うか?それは誰のためになるのか?」


約束を果たすためには、まず自分が生きること。


その選択が彼に対する最大の敬意であり、未来への道筋を示すのだ。


わたしは今、彼の思いを胸に生きている。


時の狭間で交わした約束が、今もわたしの心の中に生き続けている。


過去を受け入れ彼との時間を大切にすることが今のわたしにとって未来を選ぶための力となった。


彼が遺したメッセージはただの言葉ではなく、人生の指針だったのだ。


生活の中で彼のことを思い出すことは多い。


街を歩いているとふと彼の好きな場所を見つけたり、彼が好んでいた音楽が流れたりする。


そんな瞬間、心が温かくなり彼の存在がそばにいるように感じる。


友人の誕生日には彼が好きだったカフェで彼のために小さなイベントを開くことにした。


共通の友人を招いて彼の思い出を語り合う場を作った。


みんなが彼について語ると、彼の笑顔が自然と浮かんできた。


その日、彼の遺書を再び開いた。


あの日の言葉が、今のわたしにどれほどの影響を与えているかを思い知る。


『私の命は、私のもの。誰もその価値を決めることはできない。』


この言葉が、わたしの心の中で何度も反響している。


わたしは、その言葉を胸に秘めながら、彼のことを忘れないと心に誓った。


彼の苦しみを理解することはできないかもしれないが、彼が生きた証を大切にし彼の思いを次の世代へ伝えることはできるのだ。



第五章 未来への選択

時が経つにつれわたしの中で彼の存在は変化していった。


彼の死を悲しむだけでなく、彼との約束を果たすために生きることがわたしにとっての新たな目標となった。


ある日友人たちと共に彼の好きな山に登る計画を立てた。


彼がよく話していた「この景色を一緒に見よう」という言葉が、わたしの心に残っていた。


山頂に立った時彼の存在を感じることができた。


「ここだよ、彼も一緒にいる」と友人に伝えた。


その瞬間、彼の笑顔が頭に浮かんだ。


自然の中で感じるその感覚は、彼と繋がっているような気がした。


友人たちも同じように感じているようで、皆が一緒に彼を思い出すことができた。


日々の暮らしの中で新たな選択を重ねながら過ごしていくうちにわたしは過去の痛みを少しずつ乗り越えていった。


彼の教えはわたしの心の中で生き続け、前に進む力となった。


新たな友人もでき、彼との約束を果たすために生きる姿勢を共有できる人々が増えていった。


彼の存在は、決して消えることはない。


新しい出会いを通じて、彼の思い出がわたしの人生の一部となった。



第六章 終わらない約束

そして、再び彼のことを思い出す瞬間が訪れた。


ある晴れた日、彼の好きだった海辺を訪れた。


波の音を聞きながら彼と過ごした楽しい思い出が次々とよみがえる。


「ここにいるよね」と空を見上げる。


彼の笑顔を思い浮かべながら、彼に話しかける。


「生きているよ、あなたの思いを忘れないから」


その瞬間心の中で何かが満たされるのを感じた。


過去の悲しみは決して消えないが、それでも彼との約束を果たすことが未来への道を照らしてくれるのだ。


ふと波打ち際に立ち、海を見つめる。


彼が生きていたら、どんな未来を選んでいたのだろうか。


彼の言葉が心の中で響く。


「死は生の対極じゃなく、その一部だ。他人の死を理解することはできないが、君はどうする?」 


その問いが、今もわたしの心に重くのしかかる。


選択肢は常に目の前にあり、どの道を選んでも後悔はついて回るのだと知っている。


彼の遺書が示した通り、決めるのは自分自身。


誰のためでもなく、自分のために選ぶことが重要なのだ。


「だから、これから先、何を選ぶ?」


波の音に乗せて、自分に問いかける。


彼との約束は続いている。


そしてその約束が、今後の選択に影響を与えることを信じている。


約束は終わらない。


彼と交わした言葉、思い出、そして彼が教えてくれた「生きること」の大切さは、今後の人生の中でずっと生き続ける。


わたしは彼の分も生きて、彼のことを忘れずに前に進んでいく。


「あなたなら、何を選ぶ?」


海を見つめながら、その問いが心に残る。


今後の選択は、わたし自身の手の中にあるのだ。


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