マラソン大会
放課後の教室で、鈴木が唐突に言い出した。
「そういや、来週マラソン大会だよな。お前ら、やる気あんの?」
俺は肩をすくめて答える。
「やる気とか、そういう大会じゃないだろ。普通に走ればいいだけだ」
「それだよ! 普通に走るのがつまんねぇんだよなー!」
鈴木が机に突っ伏して不満を漏らすと、宮田がすかさず口を挟む。
「鈴木くんは普通に走るのすら怪しいじゃない。日頃の運動不足、反省しなさい」
「おいおい、俺だって走れるっつーの!」
鈴木はへらへら笑っているが、明らかに余裕がない顔だ。白松さんはそんなやり取りを見て、クスッと笑う。
「みんなで走る練習をすればいいんじゃないかな? 気分も変わると思うし」
「練習って、ただ走るだけだろ?」
鈴木がめんどくさそうに言うと、白松さんは少しムッとした顔になる。
「ただじゃないよ。みんなでやると楽しいかもしれないし!」
白松さんの言葉には、なんだか妙な説得力がある。結局、俺も鈴木も彼女に押し切られる形で、放課後にマラソン大会の練習をすることになった。
放課後の校庭は、まだ部活の生徒たちが練習していて活気がある。俺たちは体育倉庫からストップウォッチを借りて、トラックに集合した。
「さてと、じゃあ軽く2周くらいから始めるか」
俺が言うと、鈴木が首を振る。
「2周なんか余裕だって。最初から5周くらいいけるだろ」
「鈴木くん、それフラグだからやめておいたほうがいいよ」
宮田が冷静に指摘するが、鈴木は「へーき、へーき」と言いながら走り出した。
案の定、3周目あたりで鈴木は息切れしてペースダウン。
「やべぇ、足が動かねぇ……」
俺は軽くため息をつきながら、横を走る白松さんに声をかける。
「ほら、言った通りだろ」
白松さんは苦笑しながら、鈴木に声をかけた。
「無理しないで、少しペース落としたら? ここで頑張りすぎると本番で走れなくなるよ」
「……あー、そうするわ」
鈴木は素直に歩き始め、俺たちはその横を追い抜いていった。
そして迎えたマラソン大会当日。朝から冷たい風が吹いていたけれど、快晴の空に心が少しだけ軽くなる。
「おい桜井、今日の俺のペースについてこれっかな?」
鈴木がスタートラインで余裕ぶる。
「お前、練習のとき3周でヘバってたじゃねえか」
俺が言うと、白松さんがくすっと笑う。
「でも鈴木くん、意外と本番に強いかもよ?」
その言葉に宮田が首を傾げる。
「どうかな……無理して途中で倒れそう」
「おい宮田、もうちょっと俺に期待してくれてもいいだろ!」
そんなやり取りをしているうちに、スタートの合図が鳴り響いた。全員が一斉に駆け出す。
最初は鈴木が飛ばし気味で先頭集団に食い込んでいたが、数キロも進むと案の定ペースが落ち始める。
「おい、桜井……俺、やべぇかも」
「だから言っただろ、無理するなって」
俺は鈴木に軽く声をかけ、その横で同じペースを保ちながら走った。
少し後ろを振り返ると、白松さんと宮田が並走して、クラスの他の生徒たちを応援している。
「あとちょっとだよ! 頑張ろう!」
白松さんの声に、周りの生徒たちも笑顔で応える。その雰囲気がなんだか心地よかった。
ゴールが近づいてくると、鈴木はほとんど歩くようなペースになっていた。
「……おい桜井、先行けよ」
「馬鹿か。お前がゴールするまで付き合ってやるよ」
なんとか鈴木と一緒にゴールラインを越えたとき、クラスの仲間たちが拍手で迎えてくれた。
「桜井くん、鈴木くん、お疲れさま!」
白松さんが笑顔で手を振ってくれる。
「いやー、俺、マジで死ぬかと思ったわ」
鈴木が地面に倒れ込むのを見て、宮田が呆れながら言った。
「だから言ったでしょ。無理するからそうなるんだって」
「まあまあ、鈴木くんらしくていいじゃない」
白松さんが優しく笑うと、鈴木は少し照れくさそうに頭をかいた。
教室に戻ると、みんなが大会の話で盛り上がっていた。
「意外と楽しかったかもな」と鈴木が言うと、宮田が突っ込む。
「何言ってるの? 鈴木くんが楽しかったのは、桜井くんが付き合ってくれたからでしょ」
「おいおい、桜井は俺の付き添いかよ!」
みんなで笑い合う中、ふと白松さんが呟く。
「みんなで一緒に頑張ると、やっぱりいい思い出になるよね」
その言葉を聞いて、俺もなんだか温かい気持ちになった。
マラソン大会なんて面倒なイベントだと思っていたけれど、こうやってみんなで過ごす時間があるのも悪くない――そう思った。




