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君と風の行方  作者: 月見饅頭
第二章

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18/80

18 ゆっくり届く心

 

 ある日の放課後、俺たちは図書室にいた。


 いつものメンバーで。

 ――――俺、鈴木、白松さん、それから宮田。次のクラスイベントで使う資料を探すためだ。


「これでいいんじゃね?」

 鈴木が手にした一冊の本をパラパラめくりながら言う。


「ああ、どうせ中身も読んでないだろ」

 俺が突っ込むと、鈴木はわざとらしく笑って肩をすくめた。


「まーた適当なこと言ってる」

 宮田が軽く溜め息をつきながら本を受け取る。


「鈴木くん、それじゃテーマからずれてるよ。ちゃんと考えて選ばないと」

「うっわ、宮田さん、厳しいねえ。でも、分かったよ。俺が真面目じゃないのは知ってるだろ?」


 鈴木は悪びれもせず笑う。その様子に、宮田はほんの少しだけ驚いたような顔を見せた。


「……なんでそんなに軽く言えるの?」


 その問いに、鈴木はさらに口元を緩めて答える。


「だって、俺、失敗してもなんとかなるタイプだから。宮田さんがいれば、な!」

 その一言に、俺も白松さんも思わず顔を見合わせた。


 あまりに軽すぎるし、本気なのか冗談なのか分からない。だが、宮田の表情はほんの少しだけ変わっていた。

 彼女の中で、何かが動き始めた瞬間だったのかもしれない。


 数日後の昼休み、宮田が鈴木の机に近づいていくのを見かけた。


「鈴木くん、放課後、少し手伝ってくれる?」

「お、宮田さんが俺を頼るなんて珍しいな。いいぜ」


 普段通りの軽口を叩きながらも、鈴木は快く承諾する。

 宮田はそっけない素振りを見せながらも、どこか嬉しそうに見えた。


 放課後、教室に残って作業を始めた2人を、俺は少し離れた席から見ていた。


「なあ、宮田さんってさ、結構しっかり者だよな。俺がもっと真面目だったら、付き合ってくれたりするのかな?」


 鈴木が唐突にそんなことを言い出す。

 宮田の手がピタリと止まり、顔を赤く染めながら驚きの表情を見せた。


「えっ……!」


 だが、鈴木は彼女の反応に気づかず、「冗談だよ」と笑いながら作業に戻っていく。

 冗談―――—それだけだったのだろう。鈴木にとっては。

 だが、宮田にとっては違ったようだ。


 彼女は静かにため息をつき、呟いた。


「……全然、気づいてないんだね」


 その後、宮田が白松さんを呼び出して話している姿を見かけた。


「ゆり、私……鈴木くんのこと、気になり始めちゃったみたい」


 偶然耳にしたその一言に、俺は思わず足を止めた。

 宮田が鈴木に? 全く気づかなかった。


「えっ、鈴木くん?」

 白松さんも驚いたように聞き返している。


「最初はただの軽い人だと思ってた。でも、意外と頼りになるんだなって……」

 白松さんは少し考えた後、優しく微笑んで言った。


「葵がそう思うなら、それって素敵なことじゃない?」

 だが、宮田の顔にはまだ迷いが浮かんでいる。


「でも……あの人、私のことなんて全然気にしてないと思う。たぶん、誰にでも優しいから……」

「鈴木くんは鈍そうだから、少しずつ気づいてもらうしかないんじゃないかな?」


 その言葉に宮田は小さく頷いた。


 宮田は徐々に鈴木に近づき始めた。

 昼休みに隣に座ったり、放課後にさりげなく手伝いを申し出たり。


「宮田さんって、何かと俺のこと手伝ってくれるよな。俺、頼りないからか?」

「そんなことないよ。ただ……助け合いは大事でしょ?」


 彼女の言葉に、鈴木はふと笑った。


「宮田さんって、優しいよな。俺、もっと真面目になろうかな」

 その言葉に宮田の頬が少し赤くなるのを、俺は見逃さなかった。


 ある放課後、鈴木が不意に宮田に言った。


「そういや、最近よく俺のこと構ってくれるけど、なんかあんの?」


 突然の質問に、宮田はドキッとした顔を見せる。


「べ、別に何もないよ! ただ、友達だから……」


 鈴木はその答えに首を傾げつつ、「まあ、助かってるけどな」と笑った。

 そのやり取りを見ていた俺は、翌日の昼休み、鈴木にこっそり聞いた。


「おい、鈴木。宮田さんがお前のこと好きだって、気づいてるのか?」

「は? ないだろ、それ。俺みたいなのが好かれるとか……ありえねぇ」


「お前、それ今さら気づいたのか?」

 俺が苦笑しながら言うと、鈴木は目を丸くして黙り込んだ。


 次の日、放課後。

 鈴木が宮田を呼び出した。


「なあ、宮田さん。俺、最近お前に頼りすぎてるよな。なんかお礼したいんだけど……何がいい?」


 宮田は驚いた顔をした後、小さく微笑んで答えた。 


「……その気持ちだけで十分だよ。でも、これからも頼ってくれるなら、それが一番嬉しいかな」

 その言葉に、鈴木は少し照れたように笑った。


「じゃあ、これからもよろしくな」


 宮田は頷いた。

 その頷きが、少しだけゆっくりだった。何かを確かめるように。何かを噛みしめるように。


 隣で白松さんが、小さく息を吐いた。

 「良かった」と言いたいのか、「もどかしい」と言いたいのか、どちらともとれる息だった。


 俺も同じ気持ちだった。


 二人の間に、冬の夕日が差し込んでいた。

 鈴木はまだ、はっきりとは気づいていないかもしれない。


 でも、宮田の気持ちは少しずつ、確かに届き始めていた。

 水が石を削るみたいに。ゆっくりと、でも確かに。


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