表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/189

それぞれの苦痛2

 オオミの声がして、背中を力いっぱい叩かれたのだと理解した。

「ん? あ、何?」

「何、じゃありませんよ。心配しました……」

 オオミの両目が涙で潤ってきれいだ。何だよ、大袈裟だな。

 ぼんやりしながら上半身を起こす。小さな窓から覗く外の景色が真っ暗だ。どのくらいまどろんでいたんだろう。

「今、何時だ? ウルウはどうした?」

「六時半です。ウルウならとっくに起きて無言ちゃんと一緒にいますよ。アオチさん、寝てはだめです」

 さっき夢の中で聞いた声はこいつのものだったのか? もう、混乱してわからなくなる。これも起きがけにはあるあるだ。

「どうして寝ちゃいけないんだよ。疲れてたんだ、少しくらい良いだろ」

 明日の朝、決定的な瞬間にあくびをしているよりましじゃないか、と思う。何でこいつ、こんなに思いつめているんだ。

「この船で眠ってしまったら死んでしまう。そういうルールなんです。せめて明日の朝までは寝ないでください」

「お前、いつからそんなにここのルールに詳しくなったんだ」

「いえ……僕は、別にそんなに詳しいわけでは」

 オオミがわかりやすく目を逸らした。無駄に眼鏡をいじって落ち着きがない。普段から人と目を合わせてしゃべることが苦手なこいつが、唯一目を見て話す俺にこういう態度を取る時は、何か隠し事がある時だ。

「何だよ、正直に言えよ」

「……無言ちゃんに聞きました」

 ちょっと驚いて、俺の方が無言になった。

「……無言ちゃんがしゃべったのか」

「内緒なんです、誰にも言わないでください」

 オオミが急に小声になる。

「どういう事だよ。お前、いつの間に無言ちゃんとそんなに仲良くなったんだ。結構美人だもんな、いいじゃないか」

「そんなんじゃありません」

 食い気味に否定するのが、小学生みたいで微笑ましい。

「それで、無言ちゃんは何て言ったんだ」

「あっちの船で死んでた人たちの事を教えてくれたんです。みんな、死ぬ前に眠っていたそうです。無言ちゃんだけが起きていたって」

 そんな大事な話なら、今すぐみんなに聞かせてやった方が良いんじゃないか? そう思ったがオオミは声を落としたまま続ける。

「寝ていた人は次々に甲板で自殺し始めて、うたた寝していた無言ちゃんも自殺しかけたけれど、何とか耐えられたそうです。寝入ってしまわなかったから助かったんだと思います」

 さっきの俺は熟睡してしまっていたように思うが。 話が全然見えてこない。

「何で寝ると自殺するんだ? 向こうの回収人が殺したんじゃないのか? 大体、恐ろしくて良く見れなかったけど、あれは誰かに刺されたみたいだったぞ」

「すみません、まだ興奮していて。説明します」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ