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鳥を撃つ人2

「タンチョウモドキがか」

「何だよ、それ」

 そう言うや否や回収人が物凄い早さで右舷に向かって走り出した。丁度死角に入った時、海に大きなものが落ちる音がした。

 直ぐにタンチョウモドキだとわかった。あいつがまた撃ったんだ。こいつらは次の世界に行けない見捨てられた心臓を喰らうんだ。じゃあ、さっき狙われたウルウはまだ生きているけど、こっちに置いていかれることが確定なのか。

 それとも、俺かオオミを狙っているのか?

 そういば、あの島はーーふと思い出して、島へ視線を移し鳥肌が立った。島の周囲に、島が見えなくなるほどの数の鳥が群がっている。

 鳥は空を飛び回る様子はあんなに優雅なのに、獲物に群がる様はどうしてこうも不気味なのか。――何も鳥に限ったことではないけれど。

 そして今も、たくさんのタンチョウモドキが島を目指して四方八方から飛来していた。俺たちの船の上空を横切る鳥もいる。

 あいつら、みんな島の周囲に燃えている置き去りにされた心臓を狙っている。

「オオミ、船の中に入るぞ」

 少しも動かず、空を睨んでいるオオミに声をかけた。こいつ、さっきのオゼへの態度といい、どうしたんだ。

「駄目です。あそこで喰われている心臓は、明日の僕らなのかも知れないんですよ」

「お前、知ってるのか? 誰がこの世界に置いていかれるか。それってもしかして俺たちか?」

「……このままではそうだと思います。だけど僕はそんなの絶対嫌です。アオチさんと次の世界に行きます」

 見たことがない凛々しい表情で言われてうろたえた。

「何でそんなに確信を持ってるんだよ……」

「だってそれはーー」

 話しかけたオオミがよろけた。俺も一緒に冷たい甲板に崩れ落ちて、膝をつく。死角からいつの間に現れた回収人が俺たちを背中で押し倒していた。

 回収人は並んで転んだ俺たちに一瞥もくれず立ち上がると、そのまま銃を放った。

 銃を撃つところを見るのは初めてだった。

 何だこの撃ち方。全然標的を見ていない。正面を向いたまま横を飛ぶタンチョウモドキを撃った。射手座の弓みたいな銀色の銃を肩に掛け、背中の方に腕をまわして引いただけだ。

 音もなく、白に近い銀色の銃弾の軌跡が流れ、タンチョウモドキを捉えた。羽を散らして海に落ちる姿に何とも言えない気持ちになっていると、突然回収人が目の前にしゃがんだ。

 次は何だ。それにいつの間にか銃を逆肩に持ち替えている。そしてまた腕を軽く引いた。

 弾丸など見えないが、その描く軌跡は光りながらしばらく残るので確認できた。今度はタンチョウモドキが二羽落ちた。

 二発も撃ったように見えなかった。気がつかなかっただけか。

 回収人はそのまま流れるように立ち上がると、銃を抱えて走り出した。全速力になる前に途切れてしまう船の上を踊るように動き回っている。いつの間にかわらわらと船の周りに集まってきた怖いくらいのタンチョウモドキたちを次々に撃ち落としていく。

 相変わらず全く落ちる鳥を見る様子はない。こいつは次に撃つ鳥を見ながら動き続けている。

 数えきれない鳥を撃ったあと、やっと回収人が止まった。

 静かに俺たちを振り返る。

「晴れたな」

 全く関係ないことを言って、回収人が船の入口に向かって歩いて行く。確かに高く突き抜ける空は澄み渡り、さっきまでの雨が夢だったみたいだ。

 色んな疑問が浮かびまくっていた。かなりの数撃っていたが、銃弾を込めている様子なんてなかった。そもそもどこに弾が入っているのかもわからない弓みたいな形の銃はどういう仕組みなんだ。

「かっこいい……」

 オオミの小さな声がした。肩越しに恍惚としたオオミの横顔があった。こいつ……本気で回収人に憧れている。良く言えば控えめだが、悪く言えば弱々しいところのあるこいつには、俺の目の百倍増しに恰好良く映っていても仕方ない。黙っていたら、いつまでも回収人のとっくに立ち去った空虚な場所を眺めていそうなので、背中を叩いた。

「立てよ、今度こそ俺たちも中に入ろう」

 先に立ち上がって手を貸してやる。オオミの痩せている割にしっかりした腕を感じながら、考えていた。

 こいつの言っていたこと、俺たちが明日の朝、燃える心臓になってタンチョウモドキに喰われること。その時、もう守ってくれる回収人はいない。



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