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連れて行かないで2

「当たらないよ。僕たちの順番ではないのを雷は知っているから」

 ローヌさんは何度もこの光景を見てきたんだな。落ち着き払った悲しい声が雷を伴奏にした歌みたいに聞こえる。 

 海から空に向かって落ちる雷鳴が打ち上げ花火の様に加速して、鳴りやまない。その光と音が最高潮に達した時、回収人さんの声が響いた。

「お前ら、船内に入れ」

 回収人さんの声はどうして雷に呑まれないんだろう。口先でしゃべっているように見えるのに、甲板にいた僕たち全員の耳にしっかり届いた。

 最初にカオリさんが無言ちゃんの腕を引いて入口に向かった。

「僕は心臓を回収する準備をしに行くよ」

 そう言って、ローヌさんも軽やかに船内に消えた。

 続いてオゼさんが、アオチさんにくっついたままのマモルくんを自分の方へ引き寄せ、僕たちに声をかけた。

「おい、お前らも行くぞ」

「嫌です」

 マモルくんの手を握ったまま、オゼさんが僕を知らない人を見るような目で見た。

「……どうして?」

 乾いた声で聞かれた。

「僕、アオチさんと雷が消えるのを見届けます。オゼさんは安全なんだから、好きにしてください」

「そんなことーーない。お前、どうしたんだ。俺たち三人ともまだ安全だよ」

「僕たちーー僕とアオチさんにはもう時間がない。わからないけど、きっとそうなんだ。放っておいてください!」

 自分でも驚くほど乱暴なことを言っていたが、心のどこかでオゼさんに傷ついて欲しいと思っていた。

「おい、オオミ、どうしたんだよ」

 困った顔で僕とオゼさんの顔を交互に見ているアオチさんに、

「いいんだ……中で待ってるから。気をつけろよ」

 そう呟いて、雨の中、入口へと消えていくオゼさんの背中を見送っていた。ああ、さっきまで僕の身体は麻酔でも打たれていたのかな? 今、背中がとても冷たくて痛い。

「オオミ……」

 アオチさんすら言葉に詰まっている。

「だって、オゼさんはーー」

 その時、海の底から太陽が猛スピードで登ってきたような、目がくらむ光が溢れて、空の白い船の蛇を呑み込んで消えた。


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