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連れていかないで1

連れていかないで          オオミ


 連なる船の蛇が、躍りながら闇混じりの空にぐるぐると巻き取られていく。

「もう、次の世界に入って行ってるんじゃないですか?」

 雷に負けない大声でローヌさんに向かって叫んだ。

「違うよ。言っただろ、次ぎの世界への移動は明日の朝、全員が揃ってからだ。それまでは、保管される」

 ローヌさんの声は張り上げるわけでもないのに、良く通る。

「保管……?」

 その時、また海から雷の音がした。空からじゃない、明らかに足元から聞こえた音だ。雷光はどうしたんだろう。光が追い付けない音なんてあるのか? すると、少し前まで夕陽と雨を浴びて、黄金の輝きを放っていた海面の下から、金を喰うほどの銀色の光が登って来るのが見えた。

 空をずっと見上げていたから首が痛くて気持ちが悪い。違う、急に下を見たから吐きそうなのか、船が激しく揺れ出したからなのか、腹の底に響く雷鳴のせいなのか、眩暈がするほどの眩しさのせいなのか、きっと全部だ……。

「おい、大丈夫か」

 アオチさんが僕の肩を支えてくれた。自分だって青い顔をしているくせに。

 そんな僕らをオゼさんとローヌさんが同じ悲しい目で見つめていた。二人は似ているーーそう感じた時、急に不安に襲われた。

 アオチさんの腕につかまりやっと立っていられる。

 この二人は明日、次の世界に誰が連れて行かれるのかを知っている。二人きりで船の中でその事を話していたんだ。

 嫌だ嫌だーー助けて。僕の心の中に浮かんだ考えに吐き気が止まらない。自分が許せなくて、殺してしまいたい。

 一瞬だけど、強く強く、今鳴り響いている雷より強い気持ちで願ってしまったんだ。

 明日、新しい世界に行くのは僕とアオチさんだけで良い、って。

 他の人の事は考えられなかった。ごめんなさい、ごめんなさい。

 僕の偽善を制裁するように、足元でくすぶっていた雷が海を切り裂いて顔を出した。

 丁度、僕らの船と島の間くらいに。こんな近くで雷を見たことがないから、これが普通のサイズかどうか知らないけど、とにかく自分の目が信じられないほど巨大なジグザグの光の柱だ。それに一つじゃない。次から次へとだ。

「この船に当たったりしないよな」

 アオチさんが僕を支えたまま、ローヌさんに尋ねた。僕がその腕に力いっぱいしがみ付いている理由を、怖いからだと思っていて欲しい。


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