船上の雷4
ずっと理想としていた人に再会したのに、成長したところを見せる間もなく、朝が来れば夢から覚めるように引き離されてしまう。
おばさんの真っ直ぐな髪に流れる夕陽を見ていたら苦しくなって、ローヌの手を握った。
「不安だよね、僕もこの子の事が心配だ」
ローヌの肩越しにウルウが現れた。雷が怖くて隠れていたんだろうか。そして、今度は船に一人が怖くてこっそり出てきたんだ。かわいい奴だな。
「ウルウのことが心配って、 選ばなくちゃいけないからか?」
「僕が選ぶわけじゃない。カオリさんもマモルくんも気がついていると思うけど、僕の船の乗客を殺したのは僕じゃない。あれは、自殺……に近いかな」
「自殺に近いとか、遠いとかがあるのか」
真面目に聞いているのに、ローヌが笑って答える。
「僕より君の方が詳しいだろ? 君だって何度も同じこと考えてきたじゃないか。これまでと違うのは僕らにはもう明日がないことだよ」
「うるうぅ……」
雷にウルウの赤い身体が鮮やかに浮かび上がった。こんなきれいな赤で船に生まれたこいつは何者なんだ。
「この子の正体は『良心』だと僕は思っている。だから何とか次の世界に連れて行きたい。生まれて直ぐに失した方が悲しみが浅いと思うかい? そんな事もあるかも知れないけど、僕はきっとずっと悲しんでしまうから」
「でも、一人だけしか連れていけないんだろ? もしかしてお前もーー」
回収人と同じように自分を犠牲にするつもりか、そう聞こうとした俺をローヌは遮った。
「僕にはできないと思う。彼の真似をしたくて何度も試したけど、肝心のところで怖気ずくんだ。臆病な僕は、君たちの回収人に言わせれば『殺人者』も同じだよ。自殺していった僕の船の乗客たちはとても勇敢だ。彼らが自分自身のことをそう思ってないことが悲しくて仕方ない」
すっと赤い手が伸びて、ウルウがローヌの涙をすくった。
頬をつたう水滴の中でも涙が見分けられるのは何故だろう。
ふと、身を乗りだして島を眺めていたオオミが夕陽を振り払ってこっちを見た。雷鳴に負けない声を張り上げて俺に向かって叫ぶ。
「オゼさん! もっとこっちに来て下さい! 一緒に見ましょう!」




