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船上の雷3

 ローヌの顔に流れる水を見て、雨が降り出したことに気がついた。

「あの島には雨が似合うから、雪も霧も雨に時間を譲ったんだね。ねえ、君はどっちが良い? この世界で最後の瞬間、雨の中を駆けたい? 雪の中を駆けたい? それとも強い太陽を呼ぶの?」

 俺を覗き込む目に夕陽が差し込んで、名前を知らない無数の色が輝いている。

「俺はーー雪に迎えに来て欲しい」

「そう。真っ白な雪は君の孤独に似合ってしまうね」

 柔らかいローヌの声が静かに胸に沁みた。

「今に世界は逆さまになる」

「え?」

「いや、今はしっかり見ておくといいよ。君の好きだった人たちの姿も、君と一緒に旅をしてくれている友人の姿も、次の世界に記憶が持って行けなくても刻んでおくんだ。記憶も知らない魂の奥底に」

 意味が解らないし、俺だけが次の世界に行くと決めつけている言い方も嫌だ。

 ふと、選ばれないことになっている二人――アオチとオオミを見て、目がくらんだ。あいつらの髪に、顔に、まつ毛に、目の中に、指先に、纏う雨が夕陽を反射して、動く度に、呼吸をする度に、キラキラと振り払われ、意志を持っているように動く。

「あいつらの周りで夕陽が生きてるみたいだ」

 こんな景色、絵画でも写真でも誰かの想像の中にもない、俺だけの光に溢れた光景だ。

 ローヌは何も言わず、悲しい笑顔で頷くだけだ。

 二人は今、何を話しているんだろう。この状況がわかっているのだろうか。間には入れないけれど、そのやり取りをもっと見ていたい。

 アオチの足元にはピッタリとマモルがいる。アオチには完全に無視されている状態なのに、いじらしくて泣けてくる。

 誰に殺されたのか解らないが、俺が代わりに死ねば良かった。本気でそう思う。

 おばさんと無言ちゃんが、三人から少し離れた場所で、雷の降る島を眺めている。

 二人ともタイプの違う美人だ。無言ちゃんは彫が深くて、大きく強い目も薄茶色で異国の人みたいだ。 無言だから余計にそう思うのかも知れない。見覚えのある服を着ていると思ったけれど、あれ、おばさんの冬のコートじゃないか。オレンジ色の鮮やかなコートを羽織っている。また回収人の部屋から出てきたんだろうか。つくづく不思議な部屋だ。

 無言ちゃんはさっきまで、どう見てもアメニティの寝巻のような物を着ていたから丁度良かった。

 当のおばさんはスーツのジャケットだけで寒くないのだろうか。

 俺の好みは今日までずっと一貫しておばさんだ。整っているのに控えめな見た目も好きだし、甘えを許さないおばさんを覆っている、冬の朝のような透き通った空気も好きだ。時々、笑いかけてくれた時には、指先で溶ける冷たい雪に感動していた幼い頃を思い出し、じんと来た。


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