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変わり者3

 こっちの回収人よりずっと若い。同じ回収人でも色んな年代がいるのか、それとももしかしたらーー。

「お前、這い上がって来たなら自分の船に戻れば良かっただろう。こっちに来るなよ」

 回収人が呆れた顔で言う。

「あなたが僕の乗客を連れて行ってしまうからでしょう。僕だって彼らのことを心配しているんです」

「それで? あの人はどうだった?」

「海に守られて休んでいました。明日の朝には動きだすでしょうね」

 新たな登場人物にオゼくんが反応した。

「あの人って誰だ?」

 回収人が当たり前の事のように答える。

「死んだふりをしていた海や空や風が生き返るんだ。次の世界に行くために。それを先導する人のことだ」

 オゼくんは全く理解していなよううだけど、彼らしく一度話題を変える。

「ああ、まあ‥…そうか。それで、ついでにローヌに聞きそびれていた事を聞いていいか」

「いいよ、言いたくないことは話さないけど、言えることは正直に話す」

 そう言って医務室の椅子に腰をおろした。娯楽室に居る時から、この人は椅子とかソファとかテーブルとかに触れる度、家具の上で指先を愛おしそうに動かす。

「こっちの回収人は『気持ちの強い方の故郷に向かう』とか曖昧なことを言ってたけど、もしかしてーー何となくだが、ウルウと無言ちゃんの故郷は俺たちと同じなんじゃないのか? そうだとして、無言ちゃんは俺たちが会ったことがないだけかも知れないけど、さすがにウルウがいたら目立つと思うんだ」

「君は几帳面だねえ。そう、あの子たちの故郷は君と同じだよ。梯子でつながれたというのはそうい事だ。ウルウはねえ、今日生まれたばかりだから君たちが見たことがないのは当たり前だよ」

 オゼくんが絶句する。わたしは予感していたからそんなに驚かなかったけど。

「今日生まれたって……そんなわけないだろ。あんなに大きいんだぞ。誰の子だ? 無言ちゃんか? 死んでた奴らの誰かの子か?」

 オゼくんが食い気味に質問しているのが可愛らしい。この子はわたしとマモルくん以外には結構強気なところがある。

「そうだね、船では君たちの知らないことが良く起こるからね。僕たち回収人には日常だけれど」

 ローヌはこうして近くで見るとまつ毛が長くて驚くほどきれいな顔をしている。

「お前は一人しか次の世界に連れて行く気はないんだろ。無言ちゃんとウルウのどっちかをまた殺すつもりでいるのか。俺たちの回収人は三人とも助けたいって言っていたぞ」

「そうだね、そんな事はしたくないけど。僕の意志に関係なく、そうなってしまうんだ。君らの回収人は三人とも助けてくれるかも知れないね。なんならカオリさんとマモルくんも助けてくれるかも知れない。彼は変り者だから」

 回収人を見たいけど見られない。何となく、どんな表情をしているかわかる気がしたから。

「変り者はお前もだろ。いや、お前より俺たちの回収人の方がいい奴じゃないか」

「そうだね。僕も自分の船の乗客を助けてあげたいとはいつも思うんだけど、自分を犠牲にする場面に遭遇すると怖くなって怖気づいてきた。臆病者なんだ」

 真っ直ぐなまつ毛をぎりぎりまで伏せて言うロームに回収人が声をかけた。

「それが正解だ。お前の言う通り、俺が変り者なんだ。真似するなよ」

 わたしはまだ怖くて回収人の顔を見れずにいるのに、オゼくんは元来の素直さで、聞いてしまう。

「連れて行くのは一人だけって決めなくても良いんだろ? そりゃあ悪人を新しい世界に連れて行けないっていうのはわかる気がするけど。俺たちの回収人の方が正解だ、みんな真似しろよ」

 沈黙してしまう回収人の代わりに、ローヌが下を向いたまま悲しい声で言った。

「君たち、彼のことを年寄りだと思ってるだろ。僕と同じ歳なんだよ。彼は君たちみたいなのを助ける度に命を削ってきたから」


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