変わり者2
オゼくんが追って来るが、さすがにバタンと閉じたドアを開けるようとはしない。
「おばさん、大丈夫……」
十代の頃の声が重なって、どうしようもなく悲しい。
「……大丈夫、船酔いだと思う」
全然大丈夫ではなかった。胃液のようなものを吐いて、幾分気持ち悪さは軽減したが、眩暈が続いていて動けない。
「死人も船酔いするんだーーあ、ごめんなさい」
オゼくんのせいではない。便器にもたれて頭を動かさないようにするけれど、船自体の揺れが強くなっている気がする。そういえば、天気が崩れかけていたっけ。
トイレの外が少し騒がしくなった。ああ、回収人のおじいさんの声だ。ノブをまわして膝立ちのままトイレの外に半身を出した。
「おい、大丈夫か? 隣の船の奴らなんかと関わるからだ」
力強い腕がわたしを抱いて起こしてくれた。大きな手でわたしの目を覆ってくれる。
やっぱりこの人は冷たくて温かい。冬のかまくらの中にいるような気分でいると眩暈がすーっと消えていった。
「ありがとう……」
「もうあんな奴らには関わるな。この色白のっぽと、眼鏡と、あんたの好きなアオチが居れば生きている人間は十分だろ。マモルにとってもな」
「え!」
オゼくんがやっぱり十代の表情でわたしを見た。この子はどうしたって憎めない。
「おばさんもアオチがーー」
「オゼくん、誤解だよ」
回収人は首を傾げたけれど、素直なオゼくんは信じてくれたみたいだ。あの三人の中でオゼくんが一番疑うことを知らない。
「そうーー良かった。あ、船酔いが治ったみたいで良かったですね」
オゼくんの言葉に回収人はやっと聞こえるくらいの溜息をついたが何も言わなった。この人のこういう空気を読む所も好きだ。
そうだ、死人として戻ってきてから恋をしているのはずっとこの人だ。
結構歳は取っているけど。純粋なオゼくんには絶対言えない。
アオチくんの生命力に魅了されているのを、みんな勘違いしているんだ。
「あ、お邪魔してたよ」
医務室の前にローヌが立っていた。




