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変わり者1

変り者           カオリ


「おばさん! それに血まみれ女さんも来たのか」

 オゼくんは失礼なことをさらりと言う傾向がある。この時も、もう血まみれじゃないこの子をそう呼んだ。

「オゼさん、さすがに血まみれ女はないですよ。無言ちゃんにしましょう、せめて」

 オオミくんの一言でそれからこの子は無言ちゃんになった。

 娯楽室の奥の大きなソファの端と端にアオチくんと向こうの船の回収人が座っていた。その二人の間にはマモルくんとウルウがちょこんと腰かけている。

 ――何これ、かわいい。

 ウルウがサイケデリックなロングTシャツを着て、頭から深緑色のブランケットのようなものを被っていた。

 わたしの表情の変化に気づいたマモルくんが手を振って来た。

「ウルウ、後ろ向いて。これ、ノンノ。僕が描いたの。こっちの消防車はアオチお兄さん。これはオオミお兄ちゃんのコスモス、それで、これは兄ちゃんのミーコだよ」

 鳥を消防車と言ったり、犬をミーコと言ったりするのは訳が分からないけれど子どもらしくてかわいい。

「うるうるうるーー」

 ウルウも自慢気だ。皮を剥がれたような赤い顔は怖いけど愛嬌があって笑ってしまう。

「ウルウは本当にかわいいよね。明日までずっとこのままなことを願うよ」

 優しい鐘のような声を出したのはロームだった。

 声と同じ、甘い余韻を残す眼差しをウルウに向けている。やっぱりこの人じゃない。今、はっきりした。

 ――隣の船で三人の男女を殺したのは無言ちゃんだ。

 みんなは気がついていない。視線を感じると、ローヌがわたしに「黙っていて」と眉毛の動きだけで懇願していた。

 手が痛い。左手を無言ちゃんが強く握っている。長いまつ毛の奥の目がローヌを見ている。

 言わない、言えない。でもーー思い出した。自分が殺された時のこと。眩暈がして、その場にしゃがみこんだ。掴まれていた手を振りほどいて、顔を覆っても世界は周り続ける。

「おばさん!」

 何も知らないオゼくんがわたしの横に膝をついたのがわかった。

 オゼくんは昔から優しい。とても良い子。なのに誰にもその良さを見せないように生きていた。自分から一人を選んでいた。

 わたしには素直だったオゼくん。あの頃より大きな手でわたしを支えてくれるけれど、その支えごとぐるぐる部屋がまわって見える。

「横になれば良くなるかな。おばさん、医務室が隣の隣だ。少し辛抱してください」

 その言葉が耳元で聞こえて、オゼくんの背中にいるのがわかった。背中まで血が通って温かい。気持ちが良いのに、眩暈で吐きそうだ。駄目だ、後数十秒我慢しないと。わたし、死人だったよね?

この吐き気は何? 今はまだ、また死ねない。

 医務室に着き、オゼくんがわたしを降ろすために腰をかがめた瞬間、転げるようにトイレに駆け込んだ。

「おばさん!」


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