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わたしを刺さないナイフ4

 ベッドの上の薄茶色の髪がまだ濡れているのが急に気になりだした。風邪をひく、とかよりも寝ぐせが酷いことになりそう、そっちが心配になった。

「一回起きて。髪を乾かさないと寝ぐせになる」

 かなり強めに肩を叩いたのに全然起きない。

「もう……」

 サイドテーブルを確認すると、結構わかりやすくコンセントがついていた。洗面所からドライヤーを持ってきて、寝ているその子の頭に熱風『強』を当てた。さすがに目を覚ますかと思ったのに、薄っすらも瞼を開かない。生きている人間の方が死んでいるみたい。

 とにかく気になってしかたないので、自分のためにも轟音で乾かした。古いタイプのドライヤーのようで、風力もすごいけど音もすごい。びっくりするほど柔らかいくせ毛が痛まないように距離を保って風向きを変えながら、丁寧に乾かした。

 乾いた後はしばらくその感触を指先で楽しんだ。わたしの髪質と全然違う。わたしのは真っすぐで弾力があって、艶々していて、それはそれで気に入っていたけれど、こういうのも良いな。

 外がだんだん暗くなってきている。天気が崩れるのかも知れない。

 この子は波を見て何を思っていたのだろう。この子のしたことは想像がつく。わたしも似たような場面に遭遇したことがあるから。

 アオチくんがーー彼には私たちが見えていないのに、一方的に親しみを持っているだけだけどーー彼が隣の船に飛び込んで行った時は久しぶりに心が躍った。初めて見た時から感じていた生命力が、冬の昼間に弾けたようで、自然と浮かぶ笑みが消せなかった。

 オゼくんは私たちを失っても、彼のような生気のある人と今を過ごしている。オゼくんは幸せだ。あの眼鏡のオオミくんと、三人とも助かって欲しい。

 それにしてもーーこの子はしばらく起きないだろうな。

 マモルくんは「ウルウの服にお兄さんたちと絵を描く」と言って、娯楽室へ行ってしまった。わたしも行きたい。あのウルウとかいう子も不思議だ。あの子は身体こそ大きいけれど、最近生まれたに違いない。

 だから姿もあんな風に安定していない。これからどんな風に成長するのか楽しみだけれど、それを確認する時間は残されているんだろうか。

 柔らかい髪と同じ質の寝息を立てているベッドの上の子にタオルケットをかけ直し、静かに立ち上がった。

 やっぱりみんなの所へ行きたい。呼び戻された少ない時間をこの船のみんなと過ごしたい。アオチくんにわたしが見えていなくても。

 動き出したわたしの手首を温かいものが掴んだ。柔らかい髪の子、こんなに温かい手だったの。驚いてその手を掴み返す。

 鳥を掴まえられたならーーきっとこんな感触なのかも知れない。

 仰向けのままこちらを向いた大きな目がわたしを見ていた。それでも頑なに声はださない。

「……あなたも一緒に行く?」

 小さく頷くと、今まで寝ていたとは思えない軽い動きで、その子はベッドから降りた。


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