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わたしを刺さないナイフ3
眼鏡の子は数秒フリーズした後、慌てて今閉めたばかりのドアのノブに再び手をかけた。「待って!」無意識にその背中に向かって声が出た。
確かめたかった。生きているい人に自分がどう映っているのか。
合わせたその目はわたしを覚えている様子はなかった。じゃあ、この子じゃないのか。酷く怯えているその子に伝えてあげないと、と思った。大丈夫、あなたは殺していない。
それなのに、その子はドアを背に震えながら床に滑り落ちてしまった。そんなに怖いのかなあ、ちょっとショック。いつの間にかマモルくんも顔がふっつきそうなくらいその子に近づいていた。
「ごめんなさい」、何も悪いことをしていないのにそう連呼しながらその子は部屋を出て行ってしまった。
その時、ドアの隙間からスーツ姿の男の人が見えた。場違いな服装にこの人も死んでいるんじゃないかと凄く気になった。
あっと言う間に閉じてしまったドアの向こうまで追いかけて行く勇気がなく、立ちすくんでいるとマモルくんがぽつりと言った。
「ごめんなさい、兄ちゃんを消そうとしてるんじゃないか心配だったの」




