自推3
「本当? やったー」
マモルがはしゃぐ。憧れのお兄さんの物だからか? 何が「やったー」なんだ。でも、それでもいい。明日の朝にはアオチともお別れだ。たくさん甘えておけ。
「ん? どうしたんだ?」
マモルの声が聞こえないアオチがオオミに助けを求めるのを見て舌打ちをしそうになった。まずい、五秒も平静を保てていなじゃないか。
「マモルくんがアオチさんの持ち物だと知って喜んでます。やっぱりあの部屋、過去の物が蘇るんですね」
「そうか、マモルくん。俺の絵の具セット、いっぱい使っていいぞ。こいつの服をきれいにしてやろう」
おい、見えないくせに調子に乗るなよ。アオチを張り倒しそうになるのを必死で堪える。
「ほら、ウルウ、ここの丸椅子に座って」
「うるるうるうるー」
ノリノリのウルウの周りで筆をぶんぶん振っているマモルに尋ねた。
「おばさんはどうした」
「血の付いたお姉ちゃんをきれいにするんだって」
そうだよな、あの女もいつまでも乾いた血でガサガサでいるのも気持ち悪いだろうし、こっちだって怖すぎる。
「うるるるうるるるるうるるるるるーーー」
こっちの赤いのも怖い。早く描けとさいそくしている。
「僕とオゼさんは胸に描きますね。マモルくんはアオチさんと背中に描くんだよ」
オオミが勝手に仕切るのが忌々しいが、ここは大人にならないといけない。――でも、それにしたって、マモルとは見える奴を組ませろよ。
マモルを気にしながら黒いペンを握った。
「オゼさん、せっかくなんだからもっとカラフルな色を使ったらどうですか」
「俺は輪郭は黒で描く派なんだ」
つい大人気なく俺が一番にペンを走らせてしまった。
「うるうぅぅ」
くすぐったいのか足をバタバタさせている。
「おい、動くなよ。線がずれる」
「兄ちゃん、何かいてるの?」
マモルが好奇心でキラキラした目で覗き込もうとするのを止めた。
「だめだよ、マモル。描き終わってからだ。お前は、そっちのお兄さんと描いたのを俺に見せてくれ」
マモルがキラキラのまま頷いて、ぎこちない手つきで黄色い絵の具を手に取った。手こずるマモルに手を伸ばし、役立たずのアオチの代わりにフタをまわしてやる。




