自推1
自推 オゼ
「お前、この世界に残りたいわりには生きる満々じゃないか」
アオチに引きずられながら娯楽室に入った。
船の行先を聞いた後、アオチはイライラとした様子で立ち上がると、俺の腕を強く掴んで立ち上がらせた。
「そろそろ話をしようぜ」
血まみれ女の手に自分の手を重ねているおばさんを振り返る。
「すみません。直ぐ戻りますから」
「こっちは任せて。生きている人を大切にして」
いつもクールな表情のおばさんが笑うとそれだけで嬉しくなったが、同時に切なくもなった。そのそばではマモルがウルウにあっち向いてほいを教えている。
やっぱり俺は壊れる側のこっちの世界に残る。
「俺は家族もいないから、絶対に故郷に戻らないといけないとか、そういうのは本当にないんだよ」
アオチが意外そうな顔をする。
「え? じゃあお前何でーー」
「オゼさんの気持ちはわかります。でも、ここに残っても何も無くなってしまうんですよ。無になるんです」
もう一回、アオチが意外そうな顔をする。
「お前、オゼの気持ちがわかるのか?」
「オゼさんはカオリさんが好きなんですよ。それにマモルくんのことを本当の弟だと思っちゃってます」
「ええ? でも、お前言ったよな、あの二人は俺のことがーー」
「アオチさんは少し黙っててください。鈍いなあ」
自分でも不思議なくらい、俺はこいつらがじゃれているのを見るのがとても好きだ。
「二人はオゼさんが残ると幸せなんでしょうか」
「どうだろ……」




