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離れられない船2

 真っ白でも良いとは思うが、ウルウもそういう遊びは好きそうだ。

「そうだな、回収人に今起こっていることの説明を聞いた後で、やってみようか」

 オオミが困惑している。何だって言うんだ。俺だって子どもの死人と遊んでやるくらい、やろうと思えばできるはずだ。

「このお兄さんはびっくりするほど絵が下手だから、ウルウが可哀想かも知れないな。その時は兄ちゃんが直してやるからな」

 マモルくんの正面に座っているオゼが失礼なことを言った。

「オゼさん、僕が言わないようにしているんですから」

 え? オオミまでそんなことを思っていたのか。自分に絵心が無いなんて知らなかった。軽くショックを受ける。

「マモルが後でがっかりするのは可哀そうだ」

 言葉を失っている俺のことなど気にも留めず、オゼが楽しそうに笑う。

 時計を見ると二時をまわっていた。晴れた昼間とはいえ、こいつは冬の甲板で一時間以上も、俺たちが隣の船から戻るのを待っていたことになる。ついさっきまでは元来の色白に加えて唇の色まで白くて、心配になるほどだったからほっとした。

「そうだな、オゼは器用だものな。俺はそのーーマモルくんの兄ちゃんと一緒に描くことにするよ」

 見えない相手と会話するのは結構大変だ。

 ふと、隣のテーブルを見た。血まみれ女が一人で座っている。

 横にカオリさんが寄り添っているらしい。あの女にも死人が見えるのか。いつの間にか、世の中見える方が当たり前になってしまったようで、少し怖くなる。

 誰が言い出してこういう座り順になったわけではないが、血まみれ女も闇が深そうだ。こういう時は同性同士の方が心を開けるだろう。

 出会ってから一言も声を発していないのも気がかりだ。人間とは思えない容貌のウルウですら二文字は話すぞ。

 薄茶色の大きな強い目で、今は食堂に飾られた絵をじっと見ている。もしかしたら、外国人で俺たちの言葉がわかっていないのかも知れない。

「おい、そろそろ落ち着いたか?」

 張り上げなくても良く通る声がして回収人が食堂に入ってきた。

 女二人のテーブルの空いている席に座るのかと思ったが、歩いてくる途中、片手で適当な椅子を持ち上げると、俺たち全員が見渡せる真ん中にそれを置いてふわりと腰かけた。

「立って話そうと思ったんだが、爺さんだから疲れやすくてな」

 長い脚を組みながらそう言って俺の方をチラリと見た。オオミの子どもの頃の話を何度も持ち出す辺りもそうだが、こいつ本当にこの根に持つ性格をどうにかした方が良い。

「じゃあ、早速だがーー」

「その前に、聞いても良いですか?」

 オオミが回収人の話を遮る。

「この船、動いていますよね? 隣の船も並走している。ローヌさんは引きずられたままなんですか? 無人の船がこんなにぴったり同じ距離を保って進めるものなんですか?」

「眼鏡、細けえな。でも大事なことだ、先に教えてやる。お前が掛けたあの梯子のせいだ。あれはもう絶対に外せないぞ」



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