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離れられない船1

離れられない船          アオチ


 意外なことに、ウルウと声を出さない異常に眼光鋭い血まみれ女は、スタスタと何百回も経験済みのように梯子を渡った。

 困ったのはオオミの方で、一緒に渡ってやったのは良いが俺にしがみついてくるので二人共々海に落ちるかと思った。

 そして、一番俺たちを驚かせたのは回収人だ。

 こいつが梯子もなしにどうやって移動したのかは不思議だったが、それがわかった。

 当たり前のように船の手すりに片手を置き、横向きに足を片方ずつ素早く蹴って乗り上げた。普通はそのまま落下するはずだが、次の瞬間自分の船に軽やかに降りたっていた。早い話、梯子の距離を軽やかに飛び越えた。何が何だかわからなかった。

 ーー凄え。

「おい、じいさんの癖にかっこいいな。どうやるんだよ、教えろよ」

 思わず本音が出た。どんなスポーツも人より少ない努力で人一倍上手く出来る自信がある。俺も梯子なんかに頼らず自由に船を飛び越えたい。

「ひでえな。年寄り扱いするなよ、好きでこんなんじゃないんだ。お前は梯子を使え。助けに行く手間をかけさせるな」

 やっぱりコツは教えてくれないのか。


 取りあえず、死人のカオリさんとマモルくんを含めて全員が座れる場所だったので、何となく食堂に集まった。

 向かいに座るオオミが指先で椅子の手すりを愛おし気に撫でている。気持ちが良くわかる。俺もあっちの冷たい船内にいた時、無性にこの船の温もりが恋しかった。まるでここで育ったみたいに。

 死人が一緒に乗っているだけでもかなりオカルトな状況だったが、ウルウと血まみれ女が乗ってきて更にカオスだ。今の異様さを今朝オフィスにいる時は一ミリも想像できなかった。

 周囲を見渡してみる。

 左隣に「う」と「る」しか発さない赤い人の形をした生き物がいる。その隣に俺には空席にしか見えないがマモルくんがいるという。ウルウをえらく気に入ってべったりらしい。

「うるるるるうぅ」

「マモルくん、アオチさんはそういうことはしないんだよ」

 オオミが椅子に向かって話している。

「なんだ? 何て言ってるんだ」

「ウルウに着せた真っ白の服をもっと格好良くしてあげたいから、みんなで絵を描いてあげようって言ってます。アオチさんも一緒に。でも、アオチさんって……」


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