誰か6
ウルウを真ん中に三人でーーさすがにずっと手を繋いではいられなかったけれど、ブリッジに戻った。
ドアを開けて、まず目が合ったのは回収人さんだった。
僕の後ろのウルウを見ても驚く様子もなく、笑った。
「なんだ、こんな奴がいたのか」
「うるうー」
ウルウもちゃんと挨拶をする。良かった、思った通り回収人さんはこいつのことも守ってくれるに違いない。
「船の中にはこいつだけだった。あいつはどうした? ローヌと名乗ってた人殺しは」
「ちょっと言い争いになってな。うるさいから海に捨てた。安心しろ、鎖でつないでるから、後で引き上げてやる」
ローヌさんのことは全然心配ではなかったが社交辞令で聞いた。
「そんなことをして死んじゃったりしないんですか」
本当は良くやってくれた、とすら思っていたけど。
「知らねえよ、大丈夫だろ。お前、優しいな。あんな奴のこと心配してるのか」
「いえ、実はどうでも良いです」
回収人さんが笑う。この人の目尻のシワが好きだと初めて気づいた。
「眼鏡、お前の正直な所、嫌いじゃないぞ」
褒められると素直に嬉しい。子どもの頃、倒れていたこの人に勇気を持って話かければ良かった。そうしたら何年もこの人と心を通わせて過ごせたかも知れないのに。
アオチさんの声が殺風景を絵に描いたブリッジに響いた。
「それで、どうする? 俺は早くお前の船に戻りたい。オオミと……このウルウも連れて。答えてくれるかわからないけど、甲板にいる女にも声をかけてみよう」
そうだ、こんな冷たい場所、回収人さんには似合わない。もちろん僕たちにも。早くあの温かくて柔らかくて、ちゃんと息をしている船に戻りたい。
「ああ、お前たちが帰って来たら戻ろうと思ってた。でも、この……ウルウとあの女か……どっちが今強いのか……」
後半の方は独り言みたいだった。どうしよう、一人しか連れて行けないのだろうか。だとしたら、僕はウルウを連れて行きたい。あの人形のように生気のない刃物女より愛情が湧いているから。
「安心しろ。お前ら全員連れて行く。ちなみにローヌをまだを引き上げるつもりはないから妙な正義感を出すなよ」
そう言ってチラリとアオチさんを見る。
「わかってるよーーうわああああ」
ブリッジから外へ出るドアの前に、血まみれの刃物女が立っていた。
初めて顔全体を見た。美人だ。大きくて強い目が印象的で全体的にハーフかな? と思うようなはっきりした顔立ちをしている。
――でも怖い。乾燥した血が柔らかそうなくせ毛に絡まりついていた。刃物が見当たらないけど、海にでも捨てたんだろうか。
回収人はむしろアオチさんの叫び声に驚いたようだ。僕が代わりに謝る。
「すみません。アオチさんは大袈裟なんです。これでみんな揃いましたね」




