誰か5
アオチさんはどうしてこう単純なんだろう。続けて疑問を口にしてみる。
「ウルウは皮膚が無いように見えますが、違うんですかね? 痛くはなさそうだし」
「そうだな、ウルウ触っていいか?」
そう言ってアオチさんが、タンポポの綿毛に触れるくらい軽い指の動きでウルウに触れた。さっきは一方的に強く抱きつかれていたので、感触はわからなかったようだ。
「うるうううううううう」
え? ウルウが目を潤ませ喜んでいる。皮膚があったら顔が真っ赤じゃないだろか。
「意外とツルツルしていて気持ちいいぞ。ウルウは最初からこういう皮膚なのかもな」
「うー」
アオチさんに褒められて至福の声だ。
「裸ん坊じゃかわいそうですね。何か着せてあげられる物は……あ、入院着みたいのがあります」
壁に供え付けの小さな棚に真っ白な入院着のような物が数枚、几帳面に畳まれて入っていた。その中の一番サイズが大きそうなやつを広げ、ウルウに見せる。
「ウルウ、これ着てみせてくれるかい? 君にきっと似合うよ」
出来るだけ優しく声をかけた。
「うるるるぅ」
こいつもアオチさん並みに単純な性格で良かった。嬉しそうに寄って来て「着せて、着せて」とせがんでいるみたいだ。
服に慣れていないのか、いたってシンプルな入院着を着せるのに物凄い手間取ったが、何とか整った。
「うー」
アオチさんに自慢げに手を広げて見せている。
「おお、良く似合ってるぞ」
満面の笑顔でアオチさんが言うと、ウルウは踵を上下させ飛び上がる動作で嬉しさを表現する。僕たちはこの短時間ですっかり仲良くなった。
「ウルウ、ここは一人でいると危ない。俺たちと一緒に来てくれるか」
アオチさんの言葉に首をブンっと一回縦にふると、ウルウは僕たち二人に手を伸ばした。手を繋いで、と言いたいのか。
ゆっくり手を取ると、とても温かった。この呆れるほど冷たい船はウルウの温もりを失ったら氷の船に変ってしまうかも知れない、そう思った。




