誰か4
「うう……」
薄々気がついていたけれど、こいつは喋れない。元々話せないのか、ローヌという男にやられたのかはわからない。
顔も身体も原型を留めていない。
強烈な炎で焼かれたのか、何か劇薬を浴びせられたのか、とにかくアオチさんが助けてやれるような状態ではないのは確かだ。
「おぶってやるからもう少しこっちに来いよーーうわああっ」
しゃがんでいた赤黒いやつが急に立ち上がった。自分で来いと言ったくせにアオチさんが大きな声を上げて、後ずさった。
そいつが思いのほか大きかったからだ。どうやってキャビネットの裏の隙間に隠れていられたのか不思議だ。
「ううん……」
そしてそのままアオチさんに突進した。一瞬襲いかかったのかと思ったが、直ぐに抱きついたのだとわかった。
アオチさんがよろけてながらも抱き止め、物凄く微妙な顔をしている。モテるとは思っていたけどここまでとは……
赤黒いのはアオチさんの顔にすりすりを止めない。
「おい、落ち着け。重症なのにずいぶん元気だな」
「うるうぅーうるぅう」
「何だそれ?」
アオチさんの言葉に反応して、そいつは「うるぅうるぅ」と声を上げ続けている。喜びの表現なのだろうか。
そもそも性別もわからないくらい皮膚がずり落ちてしまっているのに痛くないのか? 抱きつかれているアオチさんは、こんなことは言いたくないが気持ち悪くないのか。
「うるーーー」
こいつ、僕の考えが読めるのか? こっちに顔を向けて非難するような声を出した。
――鼻がない。正面から良く見ると、愛嬌のある目とぽかんと開いた口は目立つが、鼻も耳もない。
「ごめん、ウルウ。アオチさんが好きなんだね」
うんうんとそいつが頷く。何だか可愛くなってきた。
「オオミ、こいつの名前がわかるのか。ウルウが名前なんだな」
「……たぶん、そうだと思います」




