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誰か3

「良かった、誰もいなさそうだな」

 楽観的なアオチさんを戒めるのが僕の務だ。

「油断しないでください、ほら、アオチさんの後ろにいます」

 顔だけ後ろを向いたアオチさんが驚き過ぎて声を出す隙もなく、僕を押して部屋の外に出ようとした。

 僕たちの船とは全然違う、無機質な銀のグラデーションだけで作られているような船内をくまなく見て回り、最後に残った医務室に入った直後のことだ。

 途中、二人ともビクついていたせいかほとんど会話もなく、最後の部屋になってやっとアオチさんが表情を緩めて僕に言ったのが、さっきの気も緩んだ言葉だ。

 医務室といっても、それらしきものは解剖する死体を置くような、見るからに冷たそうなベッド二つだけだ。ベッドとわかったのも真っ白な枕と掛け布団ぽいものが置いてあったからで、そうでなければ鉄の荷台にしか見えない。

 他にあるものは、長居をさせないために作ったのかと思うほど、硬質で座り心地の悪そうな椅子が四個、同じ材質の机が一つだけだ。

 全く装飾のないキャビネットもあるにはあるが、中に人を癒すための薬が入っているのは想像できない。毒薬が並んでいる様子しか思い浮かばないのは、さっき話したこっちの船の回収人の顔がちらつくからだろうか。

 ふと船は、それを動かす回収人を現しているのかも知れないと思った。僕たちの船の、木をベースにした温かくてクラシカルな内装はきっと回収人さんの個性そのものだ。ここはあの薄ら笑いを浮かべた殺人者の中――。

「きみ、大丈夫?」

 そして問題は今、その無機質なキャビネットの裏に隠れていた人みたいな何かだ。アオチさんが驚いたのもわかる。僕も実際これが人かどうかも怪しいまま声をかけていた。

 大きな赤黒い動く物体であることは確かだ。正体不明だし、かなり禍々しい見た目だが、不思議と怖くなかった。

「僕たちは味方だよ」

 その何かが酷く怯えているような気がして優しく声をかけ、半歩ゆっくり近づいた。

「驚かせてごめんな、出て来いよ」

 気を取り直したアオチさんも言うが、この赤黒いのは別にびっくりしたりしていない。驚いていたのはアオチさんだけだ。

 もぞもぞしていた塊が少しずつその姿をキャビネットの裏から現した。その姿を確認するなり、アオチさんが駆け寄って膝をついた。

 さっき慌てて部屋を出ようとした人とは思えない。

「おい、これ……お前たちの回収人にやられたのか? 死ぬなよ。どうしたら良いかわからないけど、助けてやる」


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