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誰か2

「へー凄い勘が良いんだ。さっき僕を助けてくれた彼は正義感が強いし、これは迷うね」

 さっき向こうの船から見えたんだ。甲板に転がる三つの死体が起き上がって、頭を下に向けたままこのヘラヘラした男を指さしているのを。久しぶりの異様な光景に血の気が引いた。

 僕はこんな経験を、この回収人さんに会ってから何度もしている。死人の彼らが怖いんじゃない。指をさされ、糾弾されているのをチラリと確認したうえで、にやりと笑ったこいつが怖かったんだ。

「質問の答えになってないです」

「あーそうだね。こっちの正義感の強い彼は聞いていたと思うけど、僕は判断が早いんだ。君たちの回収人はどこまで話したの? 僕らは全員を目的地まで連れて行くことが出来ない。だからいずれ人数を減らすなら情が湧かないうちの方が良いんだよ」

「だったら……それなら最初から乗せなきゃいいじゃないですか。目的地まで全員で行けないって、それは殺す理由になるんですか」

 明るく話す男の目だけは回収人さんと同じ灰色なのに、排気ガスで汚れた雪のように忌々しいものに思えた。それでも確かめなければ。この船で起こったことは僕らの船でも起こり得る。

「後で俺から説明する。今はひとまず他に乗っている奴がいないか、二人で探して来てくれないか」

 回収人さんに再び頼まれ、仕方なく従うことにした。 

「わかりました。戻ってきたら、僕ら全員に本当のことを教えてください」

「ああ、そうするよ。あっちの背の高い兄ちゃんにもちゃんと話す。この船の構造は俺の船とほとんど同じだ。内装はかなり違うがな。誰かいたら、ここに連れて来てくれ」

 大きく頷いて、僕はアオチさんとブリッジへ続く扉に向かった。

 その時、甲板の上で死体に囲まれ、刃物を握ったまま波を見続けている女の人を見た。肩の辺りで揺れる茶色っぽいくせ毛がきれいだ。

 両膝に埋めている顔は良くわからないけれど、物凄く白い。色白なのか、血の気が引いてそう見えるのか微妙なところだ。

 そして左手に握りしめている刃物もさっきよりは良く見えた。

 どこからでも切れる刃――そう見えた。色はアオチさんと僕が渡ってきた梯子にそっくりな、嘘みたいに艶やかな銀色だ。やっぱり柄の部分が無いような気がする。手に傷が付かないのはどういう訳なんだろう。

「オオミ、早く」

「はい、すみません。あの波を見ている女の人は大丈夫でしょうか」

 アオチさんの後ろにぴったり付きながら尋ねた。

「俺たちの回収人がいるから大丈夫だろ。さっさと船内を周って早く戻って来よう」


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