誰か1
誰か オオミ
アオチさんに呼ばれて梯子に乗った。
まずい、死ぬかも。本気でそう思った。登ってみた梯子は見ているよりうんと長かった。海に落ちたら、アオチさんも飛び込んでくれるだろうか。きっと助けてくれる。そう思ってそろり、そろりと進んだ。
「お前、怖いなら早く来いよ。そんなノロノロしているから揺れるんだ」
アオチさんの声が別の世界から叫んでいるように遠くに聞こえた。
そっちを見たいのに足元ばかり見てしまう。下に覗く波が、僕が落ちるのを待っている舌のように動いている。震えが止まらない。
「なあ、俺を助けてくれよ」
今度のアオチさんの声ははっきりと耳に届いた。頑張れなんてくだらない言葉より俄然やる気が出た。
一気に隣の船へ降り立った。最後はアオチさんがよろける身体を支えてくれた。
「アオチさん、無事でしたか」
「こっちの台詞だよ。心臓に悪いぞ、お前の綱渡りみたいなやつ」
アオチさんの直ぐ後ろでは回収人さんがにやにや笑っている。この人も僕が海に落ちても必ず助けてくれそうな安心感がある。
問題はその隣の軽そうな男だ。
「よろしくね、僕はーー」
そいつが手を伸ばして来たので思わず後ずさったのと、アオチさんが僕の前に立ったのと、回収人さんがそいつの腕を掴んだのが同時だった。
「俺の客に勝手に触るな。この眼鏡は俺に嫌がらせしかしないけど、一応客には違いない。前は死にかけを見捨てられるし、今度は勝手に梯子をかけるし……ろくな事をしない」
「梯子は偶然です」
回収人さんは水に流すということが出来ないらしい。
でも今気になるのはーー
「あなた、何であの人たちを殺したんですか」




