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梯子2

 僕は何て愚かなんだろうーー。

「お前、天才だな」

 アオチさんの声だけが海に踊る光と同じくらいキラキラしている。

 そのまま、まだ向こうに落ち着いていない梯子に軽やかに飛び乗った。こっちはサーカスの観客にでもなった気分だ。危ないと思うのに高揚感に身をゆだねてしまう。

 ふと、隣の船の回収人さんが目に入った。あからさまにドン引いている。どうしよう、この場合僕が怒られるんだろか。

 ダンっと音がしてアオチさんが隣の船に降り立った。それなりによろけたし、完璧な着地ではなかったが、なんとマモルくんが拍手をしていた。やめてくれ、オゼさんが静かに怒っているじゃないか。白く長い指を握りしめて、アオチさんを冷たい目で睨んでいる。

 真っ先に動き出したのは回収人さんだった。

 まず、かろうじて自分の腕の中にあった、首を絞められ、死んでいるか、少なくとも気絶している男を乱暴に床に放りなげた。

 何てことをしているんですか、と叫びかけたが、もともと声量のない僕が言ったところで「聞こえねえよ」の一言で済まされそうなのでやめた。

 回収人さんは自分が放り投げた人物には一瞥もくれずブリッジから外に出てると、額に大きな手を当てアオチさんに言った。

「お前、なんて事をしてくれんたんだ」 

 アオチさんも負けずに声を張って言い返した。

「おい、そこどけ。あの人を助けないと」

 なまじ二人とも良い声をしているせいで、海上の舞台を見ているような気分が続く。とても殺人現場なんて思えない。

「どの人だ? 向こうのならもう手遅れだぞ」

 そう言って甲板に転がる血まみれの三つの死体を顎で指す。

「あの人たちは……残念だ。俺が言ってるのはお前が首を絞めてた男のことだ」

 そう話しながら既に回収人さんを押しのけでブリッジに入ってしまった。そうなると、ここからは様子がほとんど見えない。

 どうしよう僕もあっちへ行くべきだろうか。梯子を見つめる。あんな錆びた音を響かせていたくせに、嘘みたいに新品な銀色に光っていて、滑りそうに見える。

 躊躇いもなく渡ったアオチさんはやっぱりすごい。僕も続こう、そう決心した時、一瞬先にオゼさんが梯子の手すりを強く握った。

 マモルくんやカオリさんに良い所を見せたいの? オゼさん、それは違う。あなたはアオチさんじゃないから。あなたは耐えて守っている姿が一番魅力的なんですよ。

 オゼさんを梯子から引きずりおろそうとした時、回収人さんがさっと手を上げて僕らに止まるよう指示した。

「お前らこれ以上ことを面倒にするな。あの異常者なら死んでない」

 その言葉を待っていたようにブリッジからアオチさんの肩を借りて、軽薄そうな男が姿を現した。


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