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人殺しの船2

 その周囲の死体に目を移す。直視はしたくない。勇気を振り絞って薄目で確認した。女の人の一メートル四方に三人転がっている。

 二人は背中を向けているが髪型や体格で男女だと思った。もう一人は仰向けの男だ。怖くて顔は良く見れない。湿った甲板に流れる血は気持ち悪くないのに、死体の顔がほんの少し目の端に映っただけで変な汗が吹き出した。視線を自分の船のみんなに戻す。

 一番遠くにオゼさんの横顔があった。真っ直ぐ刃物の女を見ている。真剣な顔は何かを思い出そうとしているみたいだ。知っているのか? この殺人者を。オゼさんの足にすがりつくようにマモルくんが顔を埋めている。明かりを集めて光る、子ども特有のつやつやの髪をオゼさんが落ち着かせるように撫でている。

 その横にいるカオリさんに一瞬ぎょっとした。何も恐ろしい形相をしていたとか、場違いに笑っていたとかではない。

 無表情だったのだ。ただ一つ、軽い溜息をついただけだった。死人には怖いものがないのか?

 回収人さんはどこにいるんだろう。この船を動かしている張本人のくせに、体当たりされて黙っているのか? 殺人者程度でビビるなんて考えられない。

「なあ、ちょっとあれ、まずくないか」

 アオチさんが身を乗りだして低い声で言った。

「あっちの船のブリッジですか? 窓が反射して良く見えないんですーーえ??」

 回収人さんがブリッジの中にいる。いつの間に……。

 それも驚きだが、それ以上に何やってんだあの人。誰かともみ合っている。

 しばらく目を凝らしていると、同じくらい背の高い男の人の首を後ろから抱え込んで絞めつけているのがわかった。

「止めてください! 死んじゃいますよ!」

「こんな所から叫んだって、聞こえるわけないだろ。どうにかあっちに行けないだろうか」

 アオチさんが隣の船に飛び移れそうな場所を探すように走り出した。

 オゼさんも異変に気がついてマモルくんをカオリさんへ預けて動き出す。

「あ!」

 その時、回収人さんが首を絞めていた男の力が抜け落ちて、静かに床に沈み込むのを見た。


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