人殺しの船1
人殺しの船 オオミ
「アオチさん、あれ、見えてますか」
まずそれを確認した。僕の見ているものが現実に起きていることなのか、確かめたかった。
船を大きく揺らした衝撃の原因を確かめに、全員がーー死人のマモルくんとカオリさんも含めて、甲板に出ていた。風が強い。
「見えてるよーー血だらけの女と、血だらけの三つの死体が」
僕たちの船の側面に衝突した船が真横を並走している。
さっきのはこれにぶつけられた音か。
問題は向こうの甲板で起きていることだ。端的に言うと、アオチさんの言った通りだ。
まず白っぽい服の女の人が体育座りをしている。その服が血まみれなのはもちろん、横顔にも血が滴っていた。膝の上に乗せた両手に顔を埋めているので、目元しか見えない。大きく鋭い目で波を見ている。そう、甲板に転がる死体でも僕たちでもなく、波を見ている。
その手に握られている物も異様だった。
三十センチほどの刃物だ。それが僕の知っている物と様子が違う。柄の部分が無いのだ。もっと近寄ればその形状がわかるはずだが、ここからはそれ以外は何とも言えない。かなり強く握っているようだが、手がちぎれそうでも、痛そうでもない。麻痺しているのか?




