生命の匂い2
「は? 生きてるのか? 死んでるのか?」
回収人が俺たちの頭に交互に顔を埋めながら言った。
「その答えなら、生きてる」
このまま抱かれていると虜になってしまいそうで、思い切り身体を引き離した。俺に押されても一ミリもよろけないくせに、回収人が大袈裟に言った。
「乱暴だな、お前が教えろとしつこいからだろ。心臓の匂いを嗅ぐしか方法がないんだよ」
心臓の匂いって何だ? 音じゃないのか? 動いていても死んいることもあるし、止まっていても生きている場合があるのか。
「嘘ついてないだろうな」
「意味ねえよ、くだらない。気が済んだか?」
態度は気に入らないが目は嘘を言っている色じゃない。
「取りあえず良かったな、オオミ」
動揺を笑顔で隠して横を見ると、オオミの顔が引きつっていた。
「おい、大丈夫か」
「……はい。あの、回収人さん、無茶言ってすみませんでした。さ、アオチさん、行きましょう」
やっぱりこいつ変だ。オオミに引っ張られて十円玉のような錆び色に囲まれたボイラー室を出る。壁に掛けられた船内地図を見て、勝手にこんな所に入り込んだ事は怒られなかったし、面倒臭そうだったが質問にも答えてくれた。一体どうしたんだよ。
「おい、オオミ」
オオミは俺を無視してズイズイ自分の部屋まで行くと、俺を乱暴に押し込んだ。今日二回目だ。
「本当に落ち着けよ」
「はい……僕、怖くて。すみません」
ベッドの端に座り込んだオオミは、死人を見た時以上に青ざめていた。
「大丈夫だ、話してみろ」
何の根拠もなく大丈夫と言った。
「聞きましたか、回収人さんの言葉。アオチさんはあり得ないから、きっと僕なんです」
「ああ、何か『生きてる』の前に言ってたやつなら良く聞こえなかったんだ。あいつなんて?」
わかってないのに大丈夫と言ったのか、とでも言いたげな微妙な表情でオオミが呟いた。
「『お前、殺してるな』そう言ったんです」




