追う鳥5
会社に着き、エレベーターホールで待つ人の中にアオチさんがいた。いつもは僕の方がずっと早く出社するから、ここで顔を合わせることは滅多にない。
目をそらしかけた時、アオチさんが爽やかに微笑んだ。
今日に限って、この時間帯でも人が異様に少ない。今日から年末年始の長期休暇に入る人も大勢いるからだろう。
精神的に追い詰められた朝に反比例するアオチさんの笑顔でやっと現実に戻された。
実はこの朝まで、僕はアオチさんが苦手だった。最初はそんなことはなかった。ただ、僕の精神の不安定さを気遣うような態度に気がついてからは無理になった。
優しさが全部憐れみに感じてしまう。
まんまと流れで同じエレベーターに乗り込んでしまう。距離が離れていたから会釈だけで済ませたものの、これはフロアに着いたら話しかけられるパターンだ。案の定、三十五階についた途端、
「おはよう。鳥、見たか?」
艶々した顔で僕に寄ってきた。僕にとっては『見た』、というより『見られた』という印象の方が強い。
「おはようございます。はい、何だか怖かったですね」
率直な感想を言った僕の顔をアオチさんがのぞきこんだ。
「お前……クマが凄いな」
少し身を引きながら答える。
「僕の家の周り、特に鳥がすごくて、眠れなかったんですよ」
失礼ですね、という気持ちを込めて言ったのにアオチさんは全く気にする様子はない。
「俺もだよ」
本当か? 十二時間くらいぐっすり寝たような顔をしているけど。
「とにかく、何の被害もないみたいだし。今日は適当に惰性で終わらせようぜ」
そう言ってドアのカードキーをかざして、先に僕を通した。
その日、何度かアオチさんに「早く帰ってもいんだぞ」と言われたが、ほとんど意地になってその場にいた。
午後、さすがに睡魔に襲われてコーヒーを買いに外に出た。
ビルの一階のいつものカフェは既に休業に入っていて、大通り沿いの店舗まで冷たい風に吹かれて歩く。少しだけ、目が覚めた気がしたその時、視線を感じて空を見上げた。嫌な予感がした。
それが鳥と目が合った三回目だーー。




