燃える心臓4
決して大きくはない窓から差し込むキラキラした光を顔に乗せたアオチさんを、マモルくんが惚れ惚れと見ている。もっとも当のアオチさんはそんな事には気づいていないが。
オゼさんの情緒が心配なので、慌ててオゼさんとマモルくんの間へ移動し、視界を遮った。なるべく自然な調子で「本当ですね」などと言いながら外を覗き込む。
――本当に凄いことになっていた。
正午に向かう強い太陽に照らされ、無数の金色の波がちぎれたように踊る海の上を、百はありそうな丸い心臓が炎を纏いながら浮いていた。
「救えなかった心臓」、回収人さんがそう呼んでいたから、すっかり死人の心臓と思っていたけれど、海の上の心臓は力強く拍動していた。一つ一つが焼かれながら狂おしい鼓動を刻んでいる。
これが「救えなかった」ってどういうことなんだ。何なら僕より生きている感じがする。皆でうっとりと眺めていると、突然、ドンっと大きな音が身体の下から響き、船全体が大きく傾いた。
思わず壁や窓に手をついて顔を見合わせた僕たちに、これも経験済みなのかマモルくんが教えてくれる。
「おじさんが網を下ろしたの」
「回収人さんが網を下ろしたそうです」
一応、マモルくんの声が届いていないアオチさんに説明すると逆に聞き返された。
「本当に網か? 爆弾の聞き間違えじゃないか」
「何言ってるんですか、一文字もかぶってないじゃないですか……え? 何あれ?」
燃える心臓の真下に、濃い灰色の丸い爆弾のような物が浮いていた。
「爆発させるつもりなのか? 酷いことしやがる」
正義感の強いアオチさんの言葉に、またマモルくんが目を輝かせる。カッコいい事を言うのを止めて欲しい。
「いや、待て。心臓の方がだんだん爆弾の方へ寄って行っているぞ」
冷静に観察しているオゼさんは、マモルくんの様子に気がついていない、良かった。
確かに燃える心臓たちが、灰色の爆弾の上に集まってきていた。このまま混じりあって一つの大きな心臓になるんだろうか?
そう思った直後だった。巨大な白い鳥が心臓の群れ目掛けて水平にすごいスピードで飛んできた。タンチョウヅルみたいな細くてしなやかな美しい鳥だが、纏う空気が冬の空より冷たい。
「あれが、心臓を狙う鳥か? 心臓、喰われちゃうのか」
絶対何も出来ないはずなのにおアオチさんが部屋を飛び出そうとするので、必死で腕をつかんで止めた。
「どうするつもりですか。ここで見守りましょう。あ! あれ見て下さい」
「おい、そんなのに騙されるわけないだろ」
そう言って振り向いたアオチさんが硬直した。
その目は空から垂直に飛び降りて来た別の鳥を凝視している。
黒く光る翼に美しいくちばしの鳥だ。
「――あれだよ、俺を救ってくれた鳥」




