燃える心臓3
こんな気軽に自分の部屋に通してくれるなんて思ってもいなかったから驚いた。今、そんな驚きを忘れるくらい、頭と心が海より大きくうねっている。
回収人さんの部屋の中、そこは配置こそありふれた船室だった。
壁に供え付けのベッド、ソファが一つとその前に背の低いテーブルがある。僕の部屋――と言ってもさっきはマモルくんとおばさんにびっくりして直ぐに飛び出したので良く覚えていないがーーと違うのは重厚な机と椅子が置かれていること、それから面積が三倍くらいあるところか。向こうの扉はきっとシャワー室に続くものだ。
僕が混乱しているのはそういう事ではなく、そこに置かれているものだ。ベッドの上の薄汚れたネコのぬいぐるみ、あいつはチャミーに間違いない。目の色が左右で違うところも、グレーのサバトラなのに、胸の辺りに薄っすら茶色の毛が混じっているのもチャミーだ。
子どもの頃、ネコ好きなのにネコアレルギーの僕におばあちゃんが買ってくれたものだ。
直ぐに手に取りたい懐かしさを、どこからか湧いて来る不安が抑えつける。
アオチさんにその事を伝えようと、横を見た時だった。
「あれ、俺のサッカーボールだよ」
アオチさんがそう呟いて壁に取り付けられたフックを眺めていた。どこにサッカーボールがあるんだ? 瞬きをする僕に構わず、
「あの黒いネットに入っているやつだ。懐かしいな」
と言った。しかしその声はやはり不安気だ。
おいおい、ちょっとと思いオゼさんに助けを求める。
「オゼさんにも何か見覚えのあるものが?」
「本だ。あの机の上に俺がマモルに聞かせてやった本が積まれてる。どうせ俺にしか見えないんだろ? どうなってるんだ、この部屋」
そもそも、心臓回収人が乗っていたり、死人が乗っていたり、代わりに他の乗組員が乗っていなかったり、どうなっているんだの連続なので、今更ではあるが。
「あったかい思い出が見えるんだって。おじさんが言ってた」
マモルくんが、心臓を取りに行った回収人さんに代わって答えた。マモルくんの目には今、何が映っているのだろう。
三人とも過去を引きずる品を目の前にして、爪の先も触れられない中、
「心臓が凄い数になってるな」
部屋の窓からふいと海を覗いたアオチさんがそう言った。




