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マモル2

 本当か? 俺には聞こえない。迎えに行ってやろう。身体が自然にドアの方へ向かった。急に大きな手で腕を掴まえられた。回収人の手だ。想像してたのより冷たくない。

「お前たちにルールを教えておく。俺にはどいつが死人でどいつが生きてるのか区別がつかない。だが自分が死んだと認識しているやつを追うのも迎えに行くのも駄目だ。死人に呑まれるぞ」

 どういう意味だ? こいつらは理解できているだろうか、と他の二人を確認すると、アオチがオオミをかばうように背中に隠して壁際に立っていた。

 オオミは回収人からアオチを守り、アオチは死人からオオミを守る。勝手にやってろ。俺はどちらも怖くない。

 その時ドアがぎいっと重い音を立てた。

 マモルか? 扉が重すぎるのか、少し開いては閉じ、開いては閉じを繰り返している。健気で泣きそうだ。回収人に尋ねた。

「開けてやるのは迎えに行くうちに入るのか」

 回収人は俺を片手で制して、もう片方の手でドアを開いた。

 やっぱり俺では駄目なのか……。

 まず小さな手が見えて、はち切れそうな笑顔のマモルを見た瞬間、床に膝をついていた。

「兄ちゃん」

 懐かしい幼い声に、嗚咽を押さえるため自分の口に手を当てた。

 何も言えない俺の顔にマモルがそっと手を伸ばしてきた。

 ――指先が凍っているように冷たい。そのせいで堪えていた涙がこぼれ落ちた。

「マモル、寒くないか」

 胸がいっぱいで、死人には意味がなさそうなことを尋ねてしまう。

「兄ちゃん、大丈夫?」

 質問は無視して泣いている俺を気遣ってくれるなんて、相変わらずいい子だ。顔に置かれた冷たい手を握りしめて答えた。

「ごめんな、兄ちゃんは大丈夫だ。お前にまた会えて凄く嬉しいだけだ」

「あの……」

 後ろからめちゃくちゃ小さな声でオオミに話しかけられた。

「マモルくん、ごめんね。僕、君くらいの歳の頃、この人……回収人さんと会ってから死んだ人が見えるようになって、何度も怖い思いをしてきたんだよ。だから君を見て逃げ出してしまった」

「会った、というのかあれ? 見捨てたんだろ」

 余程根に持つタイプらしく、回収人が呟いた。

「このおじさんは怖くないよ」

 マモルは本当に出来た子だ。不気味な回収人に気を遣って、怖いと言わないばかりか、殆んどおじいさんなのにおじさんと呼んでやっている。

「お兄さんは兄ちゃんの弟?」

 オオミに小首をかしげながら聞く。

「僕は、兄ちゃんの後輩だよ。わかるかな? オオミと呼んでよ」

「オオミさん……」

 恥ずかしそうにオオミに言って笑った。良かった、この二人は仲良くできそうだ。問題はーー

「そこに何がいるんだ」

 だめだ、アオチは本当に何も見えてない。

「そっちのかっこいいお兄さんには僕が見えないんだね」

 マモルがしょんぼりした様子で言った。

 急にアオチが嫌いになった。困惑した顔で突っ立ているだけのくせに「かっこいい」なんて言われて。子どもはこんなのが好きなのか? それに大したことないお前を気に入ってくれた、こんなかわいい子が目に入らないのもイラつく。

「このお兄さんはちょっと鈍いんだ。気にしなくていいから」

「そんな言い方するなよ」

 そんな俺たちににマモルがキラキラした目で言った。

「兄ちゃん達、ブリッジに行こうよ」


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