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回収人2

「同じ鼓動ってなんだ?」

 こんな質問をするなんて、手際は良くても勘は鈍いな。

「印象的な感覚を共有することだ。他に何がある」

 三人が押し黙る。ほら見ろ、俺から見たら三人とも共通点だらけだ。性格や見た目が違っても同じ心臓の音がする。

「やっぱり良くわからない。俺たちがここに集まったのは偶然だぞ。たまたま同じ会社で、同じ故郷で、帰省のチケットを取りそびれていた時に船に乗せてもらうことが出来ただけだ。もっともこの船ではないけれど……」

「偶然と思いたきゃ思っておけ。この船には他にも同じ鼓動の者が乗ってる」

 また三人が同じ顔を合わせた。

「俺たちが話していたのはそのことだよ。でもそれは、鳥や死人でーー」

 また背の高い男が言ってから口をつぐんだ。オゼと言ったっけ?

「動物だろうとお前たちがとっくに死んだと思っている人間だろうと関係ねえよ。鼓動の合う者が集まる、それだけだ」

 眼鏡が不安を少しも隠さず聞いてくる。

「僕たちを集めてどうするつもりですか」

 そうだ、それを伝えなければならなかったんだ。一番大切なことだ。

「お前らを助けるためだ。でも全員は救えない」

「……救うって何から? この船は安全じゃないんですか」

 やっぱり眼鏡は臆病ではない。横眼で隣のアオチをちらりと見て気遣う余裕すらある。

「逆だよ、この船の外が安全じゃない。そこから救ってやると言ってるんだ。俺だって全員を無事に連れて行ってやりたい。でもそれ以前に群れの鳥に紛れてお前らを喰う鳥もやってくる。心臓を喰う鳥、と俺たちは呼んでいるがーー」

「俺たちーーとは誰のことですか」

「回収人は山のようにいるんだよ。今、この時も無数の船が鼓動の同じ人間を連れて海を漂っている。海に浮かぶ心臓――あれは俺たちが救えなかった者たちの心臓だ。数えきれない航海の途中で死んだ者たちの心臓を回収して、船の燃料にする。この船は誰かの心臓に動かされているってことだ」

 ――なんだ、この沈黙。こんなに親切に説明してやってるのに葬式みたいな顔しやがって。

「ええっと、僕らのうち誰かは鳥に喰われるということですか」

 混乱する心が冷静に転じた顔で眼鏡が言った。

「残念だがそうなると思う。今までもずいぶん頑張ってきた。お前に放置された時も鳥に落とされてあそこにいた」

 眼鏡の表情が固まった。こうして良く見ると意外に整った顔立ちだ。

「鳥に落とされたーーとは?」

「言葉通りだ。俺はずっとお前らのような頼りない鼓動の持ち主たちを守ろうと戦ってきた。時には鳥に返り討ちにもあった。あの時は身体を鋭い爪でとらえられ、宙高く持ち上げられて、地面に叩きつけられた。それで、あの路地さ」

 俺らしくもなく大袈裟に溜息をついて見せた。おい、笑うところだぞ、と思ったが全員顔がこわばっている。

「なんか、すみませんでした」

 眼鏡が反射的に謝っただけだ。

「いや、そんなことより、どうして俺たちが鳥に喰われなくちゃならないんだ」

 背の高い男が言った。そんなこと、とはなんだ。こっちだって死にかけたのに。

「それはーー」

「わあああああっ」

 眼鏡の叫び声が俺の声をかき消した。


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