重なる心臓3
重いドアがバタンと閉まる音がして目を向けると、回収人が既にテーブルに向かって歩いていた。年を取っているように見えるが動きは僕たちの中の誰よりも機敏だ。
回収人が椅子に腰かける前に問いかけてしまう。
「僕たちはどこに向かってるんですか」
回収人が笑いながら僕の方を見る。
「お前、意外とせっかちだな」
他の二人に対してより、心なしか僕に優しいような気がする。こいつに気に入られてもあまり嬉しくないけれど、少なくとも嫌がらすに会話をしてくれるだけ助かる。今は情報が欲しい。
「安心しろ、お前たちの故郷に向かってる。明日の朝には着く」
ほっと胸をなでおろし、椅子に座り直す。
「危険なことはないでしょうね」
「お前たち次第だろ。俺の邪魔をしないことだ」
良かった。それなら結果は変わりない。回収人にもう関わらなければ良いだけの話だ。
「そうは行くかよ」
よりによってアオチさんが余計な口を挟んできた。
要らないことを言わないでください、そう目で訴えかけたが、僕のことなど見向きもしない。回収人に魅入られて、確認もせず船に乗り込んでしまった責任を感じているんだ。
「お前、何か隠してるだろ。それに鳥を殺し損ねたって言った。今度来たら殺すつもりだろ。そんなの許さないからな」
ほら、語尾が震えているじゃないか。アオチさん、無理しないでください。
「いや、殺すよ。殺さなきゃならない時には。お前たち、あの鳥を勘違いしている」
「おいっ」
立ち上がろうとしたアオチさんの脛をテーブルの下で思い切り蹴とばした。
礼儀正しいだけが取り柄の僕の、褒められる所がこれで消えた。
声を出さずにテーブルの下まで頭を埋めてしまったアオチさんに目もくれずオゼさんがまとめた。
「わかった、あんたの邪魔はしない。ただ、なんで俺たちを船に乗せたかくらいは教えてくれよ」
オゼさん、いいぞ、と心の中で声援をあげた。あと十年もすれば僕もオゼさんみたいな落ち着きを持てるだろうか。
「そいつのせいだ」
回収人がアオチさんを指さした。おいおい、止めてくれ。
「え……」
脚を押さえながらアオチさんが可哀想な声を出した。
「お前が先に乗ってきたんじゃないか」
「勝手に乗って来たって言いたいのか。お前が乗せなきゃ済む話じゃないか」
オゼさんがすかさず言い返す。僕の口はいざという場面で反論に慣れていないから、いつも頭に遅れる。
「予期していたから中に入れた。そんな事よりーーお前ら何か変だと思わないのか」
回収人の言葉にやっとアオチさんが顔を上げた。虚勢を張っているのが痛いくらいわかる。
「思うさ。俺にとっては二日前に現れた鳥が良い変なことで、お前と会ったのが悪い方の変な事だ」
「お前、反抗的だな。聞きたくないならいいんだ」
そう言って回収人が席を立ちかけた。
「待ってくれ、こいつはちょっと興奮してるだけなんだ。鳥が好きだから。あんたが、あの妙な銃で鳥を撃とうとしたりするからだ」
「あれじゃないと殺せないんだよ。さっきも言ったがお前ら鳥を勘違いしている。アオチと言ったな、その兄ちゃんが思っている鳥と俺の狙った鳥は別物だ。つまりーー」
やっぱりそうか、オゼさんが回収人の言葉を引き取った。
「鳥は少なくとも二種類いる」




