消える死体3
急に広い食堂が暗くなって、僕たちは互いの顔を見渡した。
何のせいかはわかっている。鳥が現れたんだ。光を遮るほどの数で。立ち上がろうとうする二人の両腕をつかんだ。
「行かないでください。僕を一人にしないで」
二人が腰を浮かせている理由は全く違うのはわかっているけど、どちらも止めないといけない。
二人とも僕の手を振りほどいたりはしないけど、座ってもくれない。違う種類の欲求に抗い難い表情を浮かべている。
冷たい気配が食堂の入口から流れ込んできた。
首を痛めるくらいの勢いでそちらを振り返った。
心臓回収人が立っていた。
「お前ら、外に出るなよ。窓にも近づくな」
こいつは怖いが、言っていることには賛成だ。それより今心配なのはアオチさんだ。さっきはこいつがきっかけでおかしくなってしまった。
思わずアオチさんを回収人から庇うようにして立ち上がった。
「わかりました。鳥の群れが去るまで、ここから一歩も出ませんから、行ってください」
回収人が初めて普通に笑った。意外に笑った時のしわが優しそうだな、と思った。
「そうか、眼鏡、頼んだぞ。先輩たちは憑りつかれているようだから」
そう言って歩き去る回収人を見送ると、アオチさんの顔を確認しする。良かった、顔色は普通だ。でも、やっぱり目に怯えだけとは言えない不穏な色が滲んでいる。
「ありがとう、お前、やっぱり頼りになるな」
普段強気な人の弱々しい笑顔は胸がズキズキして苦手だ。
オゼさんに視線を移すと、悔しそうな顔で四角い窓の方を見つめている。ここらだと、外は暗い灰色が広がるだけで、もっと窓辺に近づかないと、空の様子も、海の様子もわからない。
どうしてそんなに鳥を掴まえたいんですか、と聞くのはもう諦めていた。
突然そのオゼさんが僕の腕に自分の手を乗せ、こっちを見た。
「お前、大丈夫か? 震えてるぞ」
はっとしてその手を振り払った。
「すみません。大丈夫です……」
この人は妙に鋭くて嫌だ。実はかなり混乱していた。さっき思い出したんだ。ずっとモザイクがーーいや靄がかかったようにはっきりしなかった、子どもの頃に見た路地裏の死人、あいつの顔を。
――あれは今出て行った回収人の顔だ。




