追う鳥2
「そんな訳ないーー」
思わず口に出していた。
「どうした?」
アオチさんが心配そうに肩越しに僕を見た。
「あの……空を飛んでいる鳥と目が合ったことってありますか」
「……ないよ」
怪訝な顔で答えられた。この人といると、いつもこんな調子になってしまうから苦手だ。というか、僕に得意な人なんていないけど。
エレベーターが静かに止まった。
アオチさんが扉が開くまでの微妙な間すらもどかしそうに、足踏みをしている。
イラつかせるためかと思うほどゆっくり扉が開き、するりと飛び出したアオチさんの後に続く。
だだっ広いエントランスの中央で、不気味なくらい無機質な白い石のオブジェを背に、オゼさんが立っていた。
顔だけこっちを向けて涼し気に笑っている。まず両目があることを確認してほっとする。
「良かった、無事で。さっき鳥が恐ろしいものを咥えているのを見てさーー」
アオチさんが駆け寄りながら、さっき窓から目撃した光景を話している。
「鳥の数もどんどん増えているよな。でも人を襲うなんて今までなかった。どうなってるんだろな」
オゼさんが目玉の話を聞いても全く動じていないことに、僕の方が驚く。
話しながらもオゼさんが僕の顔をチラチラ見ていることに気がついていた。顔色の悪い僕を心配しているんだ。
何を考えてるのかわからず、ずっと不気味だと思っていたこの人を始めて好ましく思った。気持ちを安易に口にしないところが心地よい。何事にもストレートなアオチさんは男女問わず人気があるけど、僕はどうしても素直に好意を示せない。
「さっさとオフィスに戻ろう。それで、早めにここを出ようぜ」
そのアオチさんが、今飛び出してきたばかりのエレベーターの方へ先頭を切った。