二人2
背中に振動を感じた。ぶ厚いドアが波打っているのではないかと思うくらい激しくノックされていた。
「オオミ、大丈夫か?」
「アオチさぁん」
耐えきれず、何だか変な声を出して部屋の外に飛び出した。扉の真ん前にいたアオチさんが、勢いよくぶつかった僕を吸収するように受け止めた。全く理解が追いついていない顔をしている。
「……誰かいたのか?」
「いいえ誰も」
かなり食い気味に答えてしまい、肯定しているのと同じになってしまう。僕の悪い癖だ。
「お前、また見えたのか」
アオチさんがぼくの肩を掴まえた。
「わからない、わからないんです……」
僕を押しのけてアオチさんが部屋に入っていった。ドアが勝手に閉じる。追いかけて中に入ろうとして躊躇する。
――しっかりしろ、アオチさんを守るってさっき宣言したばかりじゃないか。アオチさんは僕の見えているような者が苦手だ。つまり、間もなく死ぬ人と、死んだ人が。
僕のさっき見たのはどっちだろう。そんなことより、アオチさんは僕のために恐怖を押し殺して部屋に入って行ってくれたんだ。僕だって勇敢になろう。意を決してノブを握った。
カラカラの口のまま、それをまわして押し込んだ瞬間、ドアが凄い勢いで部屋に向かって開いた。室内に前のめりで突進する。
「危ないな、やめろよ」
アオチさんが倒れかかった僕を乱暴に廊下に押し戻して、後ろ手にドアを閉めた。前後に激しく揺らされ、首が丈夫じゃない僕は船が動き出す前に酔いそうだ。
「そ、それでーーー」
「中には誰もいなかったよ」
ということはあの二人はやっぱり死人か。急に外気とは違った寒さに背筋が凍り、僕はアオチさんの手を取って走り出した。
食堂はがらんとして、オゼさんの姿はなかった。まだ甲板にいるのだろうか。息が整ってからも、しばらく言うべき言葉が浮かばなかった。
「で、お前は何が見えたんだ」
アオチさんの方が先に口を開いた。
「女の人と男の子が……」
「親子か?」
死人が見えないアオチさんが聞いてくるのは当然だ。会社でも良く死人を見て怯える僕を、病気だと思って優しくしてくれていたのは知っている。だから苦手だったんだ。でも、やっと信じてくれるのか。
「一瞬しか見てないのでわからないんです。怖くて目をそらしてしまいましたから」
その時、どたどたと騒々しくオゼさんが食堂に駆け込んできた。そのままの勢いで僕たちの近くの椅子に腰を下ろす。
いつも冷静なオゼさんらしくない。乱暴に扱われた椅子が、この場にそぐわないくらい優雅な作りだなと眺めていた。
例によってぼんやりしている僕より先にアオチさんが言う。
「何があった。そんなに動揺して」
オゼさんが答えるまで空けた数秒が、何故か何倍にも感じた。
「この船、死人が乗ってるよな?」




