入場酒1
入場酒 オゼ
もやもやするーー。
回収人の話の最後、鳥を助けた少年が大人になって、回収人に伝えたこと、重要でない訳がない。
確認したかったけれど、
「僕が先に降りるよ。君たちの回収人ほどではないけど、感覚は鋭い方だから」
そう言ってローヌが真っ先に席を立ったので、続かざるを得なかった。
来た時と同じ順番で、肩に手を置いて一列で進む。今度は回収人が一番後ろだ。
電車から降りると、酒と紅茶の混じったような匂いがした。どういうことだ?
「ここが、中央広場手前だね」
さっきからそれも気になっていた。
「なあ、何で中央広場前じゃないんだ。手前ってなんだよ。大体俺たちの乗ってきた電車は誰のためのものなんだ。このとまり石を使う監視鳥は飛んで移動するんだろ? 鳥が電車に乗ってるところなんて想像つかない」
「何で電車かは知らねえよ。たまに客でも来るんじゃないか。俺たちは神様の細胞だ。使いの鳥の考えることまで理解し切れない。ただここで降りた理由ならわかる。入場酒を飲むためだ」
駄目だ、また知らない言葉だ。入場酒、言葉通りなら酒の一種だろう。だからこんなに酒臭いんだ。マモルが酔ってないか心配で声をかける。
「マモル、気持ち悪くないか? おい、回収人。それを飲まないと中央広場には入れないのか? マモルは飲めないぞ」
「紅茶もある。もう少し真っ直ぐ進め。砂利道になるから注意しろよ。転びやすそうなやつもいるしな……足元がまた平になった場所で待て。お前らに酒と紅茶を運んでやるから」
「ずいぶん詳しいな。そこの店で働いてたのか」
回収人の短い笑い声が暗闇に響く。さっき電車で中途半端に終わられた話を聞いている時も思ったが、こいつ、本当に計算されたように心地良い掠れ声だ。
声に敏感になっている今、改めてそう思う。
「店とかじゃねえよ。監視鳥に聞いた、それだけだ」
足元が平になった。
「ここで、また円になって座りましょう」
暗闇の中で一気にリーダーにのし上がったオオミが言った。
「今、外は何時くらいだろうな」
アオチの疑問はさっきから俺も考えていたことだ。
「えっと、四時位だね。僕も飲み物を運ぶのを手伝いに行くから君たちは絶対に動かないで。探すの大変だから」
ローヌが何てことなく言って、立ち去る気配がした。中央広場手前ということは、ここから広場は直ぐか。間に合うんだろうか。そもそもその場所に行ったところで、助かる保障はない。
ただ、絶対に壊れないこの石の中で、神様に見つからず、次の世界まで運んでもらう、それに賭けるだけだ。
みんな沈黙が怖いはずなのに、誰も話さない。
見えるものも、聞こえるものもない空間で、自分の存在が不安になり、手を伸ばしてアオチとマモルの膝に触れた。二人がその上に手を重ねてくれたことだけが、俺がここにいる証明だ。




