ローヌの計画1
ローヌの計画 回収人
「回収人さんを助けるためって、どういう意味ですか」
眼鏡が椅子に座り直して、俺を見た。眼鏡に真上の照明が当たって反射している。
「お前、良く磨いてるんだな、指紋一つない」
「眼鏡の話は後にしてください」
眼鏡とは言っていないのに、良く分かったな。
「慌てるなよ、どうせ話そうと思っていた。言っておくが、いつもはもっと整然としているんだぞ。今回はお前たちが妙に鳥に気に入られていることと、ローヌが邪魔をしたせいでこんなことになってる」
指先でカップの縁をなぞりながら溜息をついた。自分でもかなり絡まれやすいタイプたとは思う。
「あいつ、お前のストーカーみたいだもんな」
「なんだ、それ? でも確かに怖いな」
アオチの言うことは良くわからないが、首を絞められたり、海に放り込まれたりしても笑顔で俺にふっついて来る、あのローヌのモチベーションは正直、恐怖だ。どうしたら放っておいてもらえるのか。
「あいつに直接聞いたわけじゃないから、俺の想像も混じるがーー」
そう前置きし、ローヌがオゼを連れ去った理由を話すことにした。
あいつに最初に会った時のことはお前たちにも知っておいて欲しい。いや、あいつの事は重要じゃない。その時の状況だ。
俺はその朝、二人の乗客を乗せて、最終日を迎えた。
海に無数に浮かぶ他の船は、ここ以外、乗客は一人しか乗っていない。
もちろん俺は、二人とも次の世界に連れて行くつもりだ。
また、監視鳥に叱責されるのだろうな、と思った。そんな事は慣れているから良いとしてーー問題はさっき拾った男だ。
拾ったというか、海でもがいていて、見過ごすことが出来ず、船に乗せてやった。
その時の俺の乗客は中年の男女だったが、乗せた男はまだ若く、船に上げてやった俺に子どものような笑顔を見せ、礼を言った。
間違えて海に落ちたのか尋ねた。こいつの船の回収人は何をやってるんだ。監視鳥には俺なんかより、こういういい加減な仕事をする奴らを注意をして欲しい。
ところが男は、自分から飛び降りたんだ、と笑った。自分が死んで、一緒に乗っていた友人を助けるためだと言った。
海に飛び込んだら、急に死ぬのが怖くなったけれど、自分の船には戻れない。泳ぎは得意だったから、とにかく右も左もわからず泳いで、最初に当たったのが俺の船らしい。
他の回収人なら無視をしたかも知れない。今になって思うとそれが正解だ。
とにかく、その時の俺は、この男も助けてやれると思いあがっていた。監視鳥が空の上で大きく旋回し「やめておけ」と鳴く声もただの嫌がらせに聞こえた。
俺の乗客もその男のことを直ぐに気に入った。たまにいるだろ? 直ぐに人の心を開かせてしまう笑顔を作るやつが。あいつがまさにそれだった。
ほんの二、三時間だったよ。あいつが俺たちと一緒にいたのは。
そろそろ海の底から雷が降り注ぐ。
心臓を食わせてやらなくちゃーー。
今回は思いがけず二つ取り出さないとな。乗客の女の方と、あの若い男に一つずつ……。
そうして心臓を吐き出そうとした時、爆発音がした。
何だ? 直ぐに食堂の方だとわかった。
――若い男が食堂で燃えていた。生きている。あの、人懐っこい顔が赤黒く焼けただれて、床に滴り落ちていく。それでも意識がしっかりあることがわかる。何か言おうとしている。何だ?
未だにあいつが何を言ったのかわからないんだ。俺を責める言葉か? 後悔の言葉か? 嘆きだろうか? 今でも夢に見る。
とにかく、お前たちが知っておかなくちゃいけないのは、最後の雷鳴がなる前に、自分の船に居ろということだ。
生きたまま心臓が破裂して、燃える。意識を保ったまま。
その後、もともと生きる力の弱かった女の方が海に飛び込みかけたんだ。焼死した男みたいな未遂ではなく、本気で死ぬためにな。
自分もここに残されたら、ああなると思ったんだろ。
だから、急いで心臓を食わせた。あまり怖がるから、次の世界の扉をくぐり抜けるまでずっと乗客二人の肩を抱いていた。
その時、隣にぴったり並んでいた船がローヌのだよ。
こっちの船の様子を見て、今助けに行くとか、行かないとか、あーっと叫んでみたり、うるさかった。
チラリと目が合ったけど、なんだかギラギラしていて、見なかったことにして逸らした。
あれから、何度世界を移動してもローヌは俺の船を見つけて近寄ってくる。




