死の鳥1
死の鳥 オオミ
あれは死のメタファーなんだ。
さっきベンチの所でアオチさんが指した船を見た時、何故だかピンときた。
今、その船に向かって歩くアオチさんの背中を見ながら進んでいる。
「死」だと直感したのは実は船のことではなく、鳥のことだ。そうあの鳥の群れが死を現しているとしたら、しっくりくる。この頭のおかしい先輩たちの反応も。僕は死ぬのが怖い。そしてアオチさんみたいな陽の雰囲気を纏っている人ほど真逆の死に惹かれてしまうのも何となく理解できる。
オゼさんとはあまり話したこともないから、正直良くわからないけれど、あの人自身が死神のように見えたことは何回かある。風貌も、口調も。でもそんな人だからこそ、死とも戦えるのかも知れない。
「アオチさん」
この事を誰かに話したくて仕方なくなった。本当は全世界の人に教えてやりたい気持ちだったが、まずは手近な人に話そう。駆け足でアオチさんの横に並び、耳元で囁いた。
「あの鳥は死の使いなんです」
「お前、大丈夫か」
アオチさんが僕の顔を覗き込んだ。真っ直ぐな目だ。長い前髪で目も良く見えないオゼさんとは対照的だ。
少し前を歩く当のオゼさんは、僕たちの会話を気にしているのか、二十度くらい頭を横に傾けている。まずい、何となく聞かれたくない。更に声をひそめる。
「茶化さないで聞いてください。アオチさんを心配してんるんですよ」
「ん? もう少し声を張ってくれよ。何言ってんだかわかんない」
「大きな声じゃ言えないんです。静かにしてください。とにかくあなたは死に癒されてるんです。気をしっかり持ってくださいね」
「……」
鈍い人だな。苛々する。大事な事だけ端的に言おう。
「死なないでください」
アオチさんが悲しそうに笑った。その時、何故か確信した。
今、僕らの中で一番生命力に満ちているアオチさんは、一番最初に鳥に奪われる――。




